光点が、ドグマを伝って地下へと降りていく。
それを追うように、アスカの弐号機もまた、地下へと潜っていった。
それを見つめるシンジの胸には、何か既視感の様なものがあった。
それが、実は過去のものではなく、未来の記憶であるという事を、無論シンジが知る由もない。
それが、渚カヲルという名と、関わる事であるという事も。
新世紀エヴァンゲリオン
Irregular Episode
Cain
〜鏡の中の絆〜
The girl who reflected in mirror,What is
your name?
−10−
「さあ、」
そう意気込んでアスカは"使徒"と対峙した。
が、その意気込みがわずか一瞬の後に、戸惑いに変わる。
どういう理屈かは知らないが、使徒の正体がミハルであることは知った。
もとより彼女が使徒であったのか、それとも後天的にそうなってしまったかまではわからないが、アスカにとってはそれはどうでもいいことである。
使徒がミハルであることすらも。
だが、さすがにその姿を見たときに、アスカも躊躇せざるをえなかった。
明らかに人外魔境な形態をしていればこそ、ある意味敵と認識できる部分がある。
だが、目の前にいるのはミハル、そう、まごうことなきミハルの、そのままの姿であった。
ただし、その瞳だけが、まるで血のように、あるいは綾波レイのそれのように、真紅に染まっていた。
恨み、というほどのものではないが、アスカはミハルに敵愾心のようなものを抱いている。
それは無論、アスカの中のシンジへの想い、それに起因しているわけなのだが、たとえその想いを素直に認める事がなくとも、それでも敵愾心のほうは自分で認識できた。
理不尽な気がしないでもないが、それが人の心というものなのであろう。
ただそれは、気に食わない、という程度のものであって、決して、少なくとも今時点では憎しみとかそういった話ではない。
そうであるなら、"ミハルを殺す"という行為はさしものアスカにも抵抗はあった。
使徒であり、倒すべき敵であると、理解していても。
だが、使徒となってしまったミハルは、そんなアスカの戸惑いを感じる事も、自らの中で葛藤するとこともなかった。
その心の差が、一瞬の後に結果として現れる。
「アスカ!」
そのシンジの叫びとともに、弐号機とミハルを映し出していたモニターの画像が途絶える。
ザーという砂嵐だけが映し出されているモニターに、一瞬その場にいた誰もが気を取られたその時。
「レイ!?」
リツコのその叫びで皆が我に返ったときには、すでにレイはその場から走り去ろうとしていた。
◇
「シンジくん、レイを追って!」
咄嗟に、リツコはそう叫んでいた。
ミサトならまだしも、こういった状況下でリツコがこのようなことを言うというのは、ミサトやマヤのみならず、リツコ本人にも驚きであった。
たとえどんなに理不尽であっても、与えられた任務を、ゲンドウの意向に沿うようにこなしていく。
それがいつものリツコである。
ゲンドウに"逆らった"レイが、そしてシンジがミハルに会ったとき、いったい何をするかは予想できなくとも、それがゲンドウの考えに反することであることは明らかである。
シンジは、そしてレイも、ミハルを殺したくはない。
使徒を異様なまでに憎み、殲滅することをまるで己の使命のように感じている様に思われるゲンドウが、それを許すはずもない。
が、言ってしまってからリツコは、己の言動を後悔はしなかった。
やはりどこかで、良心の呵責を感じていたのだろうか?
もう既に麻痺してしまったはずの感覚が、まだ、彼女の中にわずかに残っていたのか。
それとも、
どこかに彼女もまた、ゲンドウへの反発心を抱きつつあったのであろうか。
シンジがネルフにきて、知らず知らずのうちにシンジは成長している。
そしてその成長が、本人もわからないうちにまわりの人間に影響を与えていたのかもしれない。
それはレイの中に"心"を生み、ミサトに過去を思い出させ、アスカを大人へと変え、そして気付かぬうちリツコの中にもなにかを残していた。
それは後に”ゲンドウへの反逆”という形で顕著化するのだが、その事を知るものは今はまだいない。
リツコ自身もまた、そこまでの考えには至っていなかったが、それでも、後悔を感じない自分の心に、逆にリツコは冷静さを取り戻した。
そして、
「ミユキちゃん、あなたも、行った方がいいわ。」
そう静かに、彼女はミユキに二人のあとを追わせた。
◇
「ミハル・・・」
駆けつけたシンジとミユキが真っ先に耳にしたのは、そんなレイの呟きであった。
その呟きの中に、どんな気持ちが込められていたのか、それをシンジたちに推し量ることは出来ない。
正確に言えば、レイ自身にさえ、それは分かってはいない。
もとより"感情"というものから縁遠いレイのことである。
自らのうちから沸き上がってくる"モノ"に、彼女は少なからず戸惑っていた。
が、その戸惑いや違和感を差し引いてもなお、今のレイの名かにはミハルへの思いのようなものが強くあった。
だから、
「お願い、目を、覚まして。」
端からみれば、いつも通りの、感情のこもらない言葉。
だが、願い、などと言う単語を口にしている時点で、それは今までのレイではなかった。
「綾波・・・」
普段ならそんな微妙な差異は、鈍感なシンジには分かろうはずもない。
無論、付き合いが浅く、平時のレイというものをよく知らないミユキには、尚のことである。
だが、なぜか二人とも、それがいつものレイでないと、どこかで感じていた。
そしてシンジは、そこに嫉妬に近い感情を覚えていた。
ちょうど、レイが父ゲンドウに笑顔を向けていた、それを見たときの気持ちに近い。
が、今はそんな感情に流されている場合ではない。
気持ちを切り替え、シンジはミハルのほうに意識を集中させた。
「彼女は、心が痛いのよ。だから、だからこうなってしまった。」
それは、"寂しい"ということ。
それで、ミユキはレイのいいたいこと、そして、ミハルの気持ちを悟った。
ミユキが恨んだ明るさの裏側にあるものを、シンジやレイに向ける好意の、そのわけを。
「寂しかったんだ。あなたは・・・」
ポツリとそう呟くと、ミユキはミハルの、いやミハルの姿をした、ミハルであったもののほうへと近づいていった。
「ミユキ!?」
姿こそミハルである、今は、レイの呼びかけのせいか動こうという気配はない。
が、"それ"が危険な"使徒"であることは、シンジたちの横に頓挫しているエヴァ弐号機が、示していた。
が、ミユキを止めようとしたシンジを、レイの腕が遮る。
「綾波?」
そのレイの視線の先にいるミユキ、その瞳からは、涙が零れていた。
「あの子は私と同じ、後にも先にも続くことのない、ただ一つの命。だから、寂しいの。だから、同じ定めの私にそれを埋めて欲しいと望んだ。でも・・・」
そう呟くレイの言葉は、彼女の言葉とは覚えないほど、寂しげであった。
「彼女の気持ちは分かっても、私にはその寂しさを埋めてあげることは出来ない。私には、その方法が分からないから。」
「方法って・・・そんなもの、僕にだって・・・分からないよ。」
「そう、誰だってそんなもの、理屈でやっているわけじゃない。でも、それでいいの。」
「?」
「それが、"家族"、そういうものだから。」
なぜレイがそんな事を言い出したのかは、シンジにも分からなかった。
ただ、きっとレイも心のどこかで家族というものを求めているのだということだけは、シンジにも分かった。
たとえ"家族ごっこ"であっても、シンジやミサト、アスカたちの関係が、どこかで羨ましいのだと。
だから、それをゲンドウや、そしてシンジに求め続けている。
碇ユイの肉体を持つ彼女にとって、ゲンドウやシンジは、家族となりうる存在なのだから。
そしてミハルにとって、最も近い家族、それは他でもないミユキである。
同じ境遇のレイや、ほのかに思いを寄せるシンジにどれほど望んでみても、それが真実である。
どんなにいがみ合って、どんなに反発しあって見せても、心のうちには常にそれがある。いや、あるからこそミハルは、そしてミユキも、お互いに反発していたのであろう。
本当の家族だからこそ、わがままを言える、甘えることが出来るのだから。
ただほんの少し、その気持ちのあらわしかたが下手だった、それだけ。
が、その気持ちが、ミハルを、いやミユキをも深く傷つけ、こんな結果をもたらしてしまった。
なら、それを収められるのも、ミユキしかいない。
「ミユ、キ・・・」
そんなミユキに対して、ゆっくりとミハルは右腕を上げた。
使徒である彼女に、ミユキに対しての思いはもはやない。
あるのはただ、立ちふさがるものを排除しようとする、その本能だけ。
「ミユキ!」
咄嗟にそうシンジは叫んでいた。
レイはただ、その様子を黙って見守っていた。
が、その表情を見れば、いつものように無関心で居るというわけでないのも、明白である。
ミユキに対して格別の思いはない。
だから、シンジと違ってミユキの身を案じているわけではない。
そんなシンジとレイの目の前で、ミハルは、いやミハルの形をしたそのものは、ゆっくりとその右腕を振り上げ、そして振り上げたその腕を斜めに振り下ろした。
鮮血が迸る。
ただ一点、いつものミハルと違うところ。
長く長く伸びた彼女の爪が、ミユキの身体を切り裂いた。
致命傷ではない。
けれどミユキの肩口からは真っ赤な血が大量に飛び散っていた。
「ミユキ!」
もう一度、シンジがそう叫んだ。
だがそんなシンジとは対照的に、ミユキの心は落ち着いていた。
「やっぱり・・・私が憎いのね。ミハル・・・」
彼女の前に立っているのは"使徒"である。
だが、同時にやはりそれはミハル以外の何者でもないのだと、ミユキは悟った、
でなければこうはしない。
使徒としての本能しか持ち合わせていないなら、ミユキや、シンジ、レイなどは一瞬にして消滅させて、その身をドグマに向かわせるはずである。
使徒というものがなんであって、彼らの目的がなんであるかは知らなくとも、傍らに頓挫している弐号機を見れば、違和感のようなものはミユキの中には生まれていたし、そうであるなら、行動の意味などは推察できるものである。
どういう方法で弐号機を倒したかは分からないが、少なくとも今ミユキに対して見せたような攻撃などはしなかったはずだし、そんな方法があるなら同じ事をミユキたちに対しても行なうのが自然なことである。
エヴァンゲリオンのようなものを一撃で行動不能に陥れるだけの力があるなら、人間の一人二人などはものの数ではないはずなのだから。
けれど目の前にいるこの物体は、そうはぜずに自らの手を下し、自らの身をミユキの血で赤く染めることを選んだ。
それがミハルの意志以外の何物であるというのだろう?
どこかにミハルとしての意識がまだ残っているから、ミユキへの恨みがどこかにあるから、そういう行動をさせる。
それがわかるなら、ミユキにはこうするしかない。
「あなたの恨む気持ちはわかる。だから・・・私を殺しなさい。そして・・・自分を、取り戻して。」
淡々と、あえて感情を込めない口調で、ミユキはそう言い放った。
ミハルをこうさせてしまったことの引き金が自分の言葉にあるのなら、自分が死ぬことでミハルが元に戻るかもしれない。
それが甘い考えであると、ミユキ人すら思わないではなかったが、それでも、そんなミユキの気持ちを、シンジやレイにも否定する事は出来なかった。
だが、
再びミハルの姿をした"それ"は、ミユキに向かって高々と腕を振り上げた。
その目に、迷いなどはない。
行動原理がミハルの恨みであったとしても、実際に行動を起こしているのはあくまでも使徒としての意志である。
だから、迷いはない。
再びミユキに向かってその爪が振り下ろされた、その時。
◇
ガキッ、という鈍い音が当たりに響き、目の前で起こる惨劇に思わず目を閉じていたシンジは、その音のしたほうを見た。
「綾・・・波?」
「もう、やめて・・・」
静かに、そしてどこか悲しげにそう呟いたレイのその右手は、ミハルの爪をその手に浮け、そこから真っ赤な血を滴らせていた。
「あなたには、もうわかっているはずだわ。」
そう呟いたレイの言葉がミハルに届いたかどうかは定かではない。
けれど、シンジやミユキのほうからは見ることのできない、その彼女の赤い瞳の奥に隠されたものが、使徒の意識の奥底に眠るミハルの心に届いた。
ドクン
なにかがミハルの心の中で脈打つ。
そしてミハルは、レイの心を知った。
後にも先にも、おそらくはその血の繋がるものを得ることの出来ない立った一つの命。
それがレイである。
そんなレイにしてみれば、同じ血の流れるものが居るというだけで、それは彼女の中のなにかに訴えかけるものがあるし、ましてや、その同じ血を持つ者がその血を流し合うという状況は、許せるものではなかった。
自分自身明確に気付いてはいない。
けれどそんな気持ちは、今湧いてきたものではなくずっと以前からあったものである。
だから、父親のことを信じられないシンジを叩いたりもした。
はじめからすべてを与えられているものに、何も持たないものの気持ちは分からない。
そして何も持たないものにとって、与えられていながらそれに不平を並べ立てるというのは、許せるものではないのだ。
しかもその理由が明らかに"甘え"であるならなおさらに。
そんなレイの気持ちはシンジには無論知る由もなかったが、反射的にシンジはレイのほうに走り出していた。
そしてそんなシンジの行動のわけを、レイもまた知らない。
淡い恋心。
それはもちろんある。
が、レイが否定し、絶望しているはずのものが、実はそこにはあるのだ。
シンジとゲンドウの中に求め続けていて、けれど今この時まで、得ることのできなかったはずのもの。
だがそれはそんな彼女の想いに反して、実ははじめからそこにあったのかもしれない。
無論今のレイはその事に気付いてはいない。
けれど・・・
何かそんなシンジの行動が、レイの胸の中に今まで感じたことのない暖かさのようなものを感じさせた。
だからレイは、走りよってきたシンジに、
「大丈夫、だから。」
そういって穏やかな笑みを浮かべる。
「いがみ合っても、寄り添いあっても、血の繋がりはそこにある、か・・・」
不意に、ミハルの口からそんな呟きが漏れる。
それは紛れもなく、ミハルの、ミハル自身の声であった。
「ミハ・・・ル?」
小さな小さなその呟きを、ミユキだけが捉えていた。
そしてその呟きの裏の、その気持ちも。
「・・・同じ血が流れているから、だからこそ寄り添い合うほどに傷付け合う、そういうことなのかもしれないわね・・・」
シンジとレイと、ミユキとミハルと、形も状況も何一つとして同じようには見えないが、実のところのその差などは僅かなものなのであろう。
そしてミユキとミハルは、そんな自分たちの今と、シンジとレイとの姿の中に一つの答えを見出していた。
「結局、いまさら兄弟がいるなんて認めたくない、そんな気持ちがこうさせたって思ってたけど・・・。そう思ってしまった時点で、やっぱり兄弟なんだって、逆にどっかで認めてた・・・。だから、甘えてたのかな、私たち。」
そのミユキの呟きに、シンジとレイはお互いに向けていた注意を、再びミハルの方に向けた。
「そうかも、ね。ほんとうに赤の他人だったら、多分こんなにむきになることはなかった。否定しながらも、血の繋がりを感じてた、だからかもね・・・。でも・・・」
「ミハル、ちゃん?」
いったい何が急にミハルに自分を取り戻させたのか、それはシンジにもレイにもわからなかった。
けれどミハルが元に戻ったことは確かであり、その事が一瞬シンジとレイの心に安堵感を与えた。
「ちょっとばかり気付くのが、遅かった、かな?」
そのミハルの言葉の意味にシンジたちが気付く間もなく、事態は再び動き出した。
◇
それはあまりにも突然のことであった。
彼女の中の使徒の因子が彼女を否定したのか、それとも彼女自身が使徒を、いや自分自身を拒絶してしまったのかは定かではないが、不意にミハルの身体が崩壊を始めた。
ゆっくりと、徐々にではあるがしかし確実に、ミハルの身体がその爪先から、液体となって溶けていく。
「ミハル!?」
「ミハルちゃん!?」
突如として起きた事態に、シンジも、レイさえもその液体がLCLであることに気付くことはない。
が、口には出さないもののレイでさえ動揺していること自体に、当のミハルは取り乱すことはなかった。
ミハル自身どこか穏やかな顔で、冷静に受け止めているようにレイには見えた。
使徒として覚醒したその時から、人として生きていくことがもうできないと悟ったから、そういう覚悟が既にあったのだろうか?
穏やかな表情のまま、ミハルは呟く。
「碇くん、綾波さん・・・ありがとう。あなたたちに、会えて、よかった・・・」
「ミハル・・・ミハル・・・ミハル!」
ミユキの叫び声が、当たりに木霊する。
「私が、私が、悪かった。あなたが・・・あなたの気持ちなんて、ぜんぜん気付いてあげられなくて。あんなこと、言っちゃって・・・」
だが、そんなミユキの言葉を、ミハルは怒るでなく、また悲しむでもなく、穏やかな顔で聞いていた。
ミユキに甘え、ミユキを苦しめた。
その罰なのだと、ミハルは漠然と考えていた。
「ミハル・・・行っちゃだめ・・・あなたは、私の、妹・・・たった一人の、妹なんだから!」
「姉、さん・・・」
それは最初で最後の、お互いを本当の姉、妹と認めた、その言葉であった。
その言葉は、ミハルにとって唯一の救いだっただろう。
そして・・・
◇
「ミユキ・・・」
小瓶の中に収められた、わずかばかりのLCL。
それが、この世にミハルが残したすべてであった。
今のシンジたちは知らない。
それがこの先人類すべてが直面するであろう未来である事を。
ミハルが使徒であるから、そういう消えかたをしたのではなく、人という生き物すべてが、そうなる運命であるのだという事を。
そしてそこから再び人を導いていくのが、他ならぬシンジである事を。
今のシンジたちにとって重要なのは、"それ"がかつてミハルという少女であったという、その事実だけだ。
「どうしても、行くの?」
そう尋ねたシンジに、ミユキは静かに肯いた。
「私のせいでミハルはこんなことになってしまった。だからせめて、ミハルを母さんの眠っているところへ、連れていってあげたい。それが唯一、姉としてしてあげられる事だから。」
その言葉の裏には、様々な複雑な思いがあった。
最後にミユキが触れたミハルの心。
どこかで母を渇望していた自分と同じように、ミハルが父を求めていた事。
ただ、母だけを頼りに生きてきて、母を失い、本当に一人になってしまった事。
自分には父がいて兄がいて、そしてシンジがいた。
そうでありながら、いやそうであったからこそミハルの気持ちを分かってあげられなかった。
そんな悔恨の念が彼女の中にあった。
ふと、ミユキはレイのほうを見る。
姉でありながらわからなかったミハルの気持ちを、レイだけがしっかりと受け止めていた。
言葉はなくとも、きっとそうであったのだろう。
そんなレイの優しさ、そしてその優しさが、おそらくはシンジから来ているのだろうという事を、どこかでミユキは悟っていた。
「ずっと一緒にいたのに、ね。」
「え?」
そう呟いて、ミユキはレイのほうを向く。
「それじゃあ、綾波さん。シンジを、よろしくね。」
寂しげな笑みをミユキはレイに向けると、シンジの方に向き直る。
「シンジ、綾波さんを、泣かしたりしちゃだめよ。私と、ミハルの分も、彼女に優しくしてあげてね。」
そういってミユキは、電車に乗り移る。
「な、なに言ってんだよミユキ。ぼ、僕と綾波は・・・そんな・・・」
そう言ってシンジはレイの方を振り返る。
きょとんとした顔で、シンジを見かえしたレイであったが、不意に、笑みを浮かべた。
「綾・・・波?」
「こういう時って、どう言う顔したらいいか、わからないから。だから・・・」
そんなレイの言葉に、シンジもミユキも、つられて笑顔も見せる。
「じゃあ、ね。」
そう一言だけ残すと、ミユキはシンジたちの前を去っていった。
「ねえ、碇くん。」
遠ざかっていく列車を眺めながら、レイはふと、シンジに尋ねた。
「なに?綾波。」
「もしも、もしも私が、ミハルさんのようになったら、もしも、私が使徒だったら、どうする?」
「え?そ、そんな・・・どう、とかいわれても。」
うろたえるシンジにレイはいつも通りの、いやほんの少しだけ寂しげな表情を浮かべて、
「ごめん、変な事聞いて。」
抑揚のない声で、静かにそう呟いた。
「でも・・・」
「え?」
「たとえ使徒であってもなんでも、綾波は綾波だよ。少なくとも、僕にとっては。」
そういってシンジは、レイに微笑んだ。
果たしてそれが、レイの望んだ答であったのか、それはレイ自身にもわからない。
だが、そのシンジの言葉に、レイは今までにないような微笑みを、その顔に浮かべた。
そして、
「・・・ありがとう。」
小さくそう呟くと、不意にシンジの首に抱き着くと、その頬を寄せ合う。
「あ、綾波!?」
「こうすると、落ち着くから。」
「・・・レイ。」
そんなレイを、優しくシンジは抱き留めた。
いつもと違う、やわらかな陽射しが、そんな二人の上にいつまでも降り注いでいた。
END
あとがき
ジェイ:ラスト、ということで後書きおばひとつ。
マナ:・・・なんか、結局綾波さんだけがいい目を見た気がするのは気のせいなんでしょうか?
レイ:いつもいつもあなただけがいい目を見るとは限らないのよ。
マナ:・・・でも最終的には・・・
レイ:この話がジェイさんのほかの話と繋がってるとは誰も言ってないわ。
ジェイ:そうねえ、いわばパラレルワールドみたいなものだし・・・。まあエヴァ自体いくつも先の話があってもいいような話だし、ねえ。
レイ:というわけでこのあと碇くんは私と結ばれるの。
マナ:・・・納得いかない。
ミユキ:それより・・・、私の存在意義って、いったい・・・
ミハル:いいじゃない、私なんて結局死んじゃうんだから。
ミサト:シリアスな話だったのに
リツコ:なんか私らはお笑いみたいだったし。
トウジ:わいらの出番も,
ケンスケ:少なかったしなあ。
ジェイ:まあいいたいことはいろいろあるでしょうが・・・
ヒカリ:ジェイさん、ジェイさん。
ジェイ:なに?
ヒカリ:一番言いたいことがあるのは・・・私たちじゃなくって・・・
ジェイ:・・・・・・・・・・・・とりあえず、彼女のことは考えないように、しよう。うん。
アスカ:結局アタシはいったいなんだったのよ!!
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
しかし、やっぱしLRSなのね(泣)
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