Sentimental
Midnight
終章
「な、なんで・・・えみるが・・・こんな、こと。」
信じられない思いで僕はそう呟いた。
「全部、全部ダーリンが悪いんだりゅん!」
その言葉にさっと反応し、僕に突き刺さる視線。
その視線の数がいくつであるか・・・その数を問うのは愚問であろう。
が、悪いといわれても取り合えずの心当たりは僕にはない・・・はずである。
「ほんとに?」
やけに低い声で耳元で囁いてくれたのは我が愛しき恋人どの。
「・・・たぶん。」
そうとしか言えない自分がなんとも情けない。
「・・・手紙・・・」
「え?」
「ダーリンのところに、手紙を出したのに。会いたいって・・・」
そう呟いたえみるの声は間違いなく涙声だった。
「手紙・・・あっ!」
そう言われて僕は思い出した、東京へ帰ってきて、高校に通いはじめてしばらくした頃、うちに届けられた一通の手紙のことを。
差出人は不明。内容は、ただ一言。
『あなたに、会いたい。』
◇
「そんな話、初めて聞いたんだけど。」
先程に引き続き、ちょっとおっかないるりかの声。
「あ、いや、それは・・・その・・・」
思わず僕は言葉を濁した。
そう、その手紙にまつわる物語。るりかには、いやえみるにも語ることのできない、彼女たちにとってあまりに辛い話。
それが、そこにはあったからである。
が、今それを僕は言わなくてはならない。僕が背負っていかなければならない、罪と、共に。
◇
差出人の名はなかったが、心当たりがないわけでもなかった。
思い出を分かち合った、12人の少女。
そのうちの誰かであろうことだけは、予想がついた。
が、それが誰かであるかまでは、僕には判断がつかなかった。
「いくらなんでも別れたばっかの千恵、じゃないよなあ。」
ぐらいのことは思ったが、一人減ったからといって残りは11人もいるのだから余り解決にはならない。
11人いる、一人多い・・・ってな意味不明のボケはひとまずおいておいて、
だから僕は、あえてそれが誰であるかを考えるのをやめた。
手紙をだしたのが誰であれ、いずれは12人のうちから一人を選ばなければならないときが来る。
考えてみれば12人が12人とも僕に好意を寄せ続けているとは限らないわけで、なんともうぬぼれの過ぎる考えなのだが、少なくともその時の僕にそういう頭はなかった。
そして僕が出した答、それは。
「僕が、僕が好きなのは・・・彼女だけだ。」
そう呟いて、僕は新幹線に乗り込んだ。
◇
「東北新幹線?」
「えっと、上越新幹線だと・・・嬉しいな。」
あのねええみるに美由紀、そういうちゃちゃを入れないでよ。
悪いけど東海道新幹線に決まってるじゃないよ。
「そしてそのまま山陽に入って・・・」
「岡山で四国行きの電車に乗り換えるんですよね。」
・・・ゆ、優に真奈美までそういうこと言うかい。
だからそうでなくって。
「新幹線へ京都へ、ですね。」
「ちょっとちょっと若菜さん、京都じゃなくって名古屋!」
「えー新横浜じゃないの?」
「どこの世界に東京から横浜に行くのに新幹線使う奴がいるのよ!」
・・・作者の知り合いにはいるそうだが。
「名古屋、よね!?」
「い、いや、あの、ごめん、るりか。実は・・・京都へ行くはず、だったんだ。」
そう、はじめは京都へ向かうはずだった。
が、運命のいたずらか、僕の乗った新幹線は爆弾テロによって名古屋に足止めを食らってしまったのである。
考えて見りゃ爆弾テロってのもすごい話だよな。まさかあれも監視者たちの仕業じゃないだろうな。
まあそれはさておき、足止めを食らった名古屋に仕方なく降り立った僕は、そこで幸か不幸かるりかと再会を果たしてしまったのである。
「・・・それは、不幸ですね。」
「ちょっと若菜さん。不幸なんじゃなくって幸運だったの。」
「それは、るりかさんにとっては幸運だったかもしれませんが・・・。少なくとも私たちにとっては、不幸な話ではないかと・・・」
「ちょっと、どさくさにまぎれて私たち、ってのはなによたちってのは!」
ま、まあるりかの名誉のために言わせてもらえば、二股かけるのがいやで結局そのあと若菜に会いに行くのを断念したってことをかんがみれば、少なくとも今るりかと付き合ってることに後悔はないし、まあ不幸ではなかった、と・・・ね。
「でもあれよねえ、どうせなら横浜ぐらいで足止め食ってくれれば。」
そしたら東京に帰ってるってば。
「いやいや、それよりも寝過ごして気付いら広島とか。」
広島ってのは中途半端やね、そこまで行ったら博多まで行ってるって。
ってその前に僕の乗ってたのは新大阪行きだからそこで終ってるよ。
・・・博多に新大阪、か。どっちに転んでもやっぱり今と同じようなことになっていたわけだ。
「いえいえ、ここは迷った挙げ句高松に来てしまうとか・・・」
どう迷うねん!
「金沢とか・・・」
方向違うって。
「やっぱり仙台なんだりゅん!」
まるっきり反対方向じゃんかよう。
「良く、わかったわ。」
僕の話を聞いてるりかが一つふう、とため息を吐いた。
「な、なにが?」
「結局、私とあなたが結ばれるのは運命だったってこと。だってさ、乗ってる新幹線が足止めを食らって、たまたま止まったのが名古屋で、しかも降りたら偶然私がいた、なんて天文学的な確率だと思わない?」
「・・・山本さん、人の台詞とらないで。」
優・・・妙なところで突っ込みいれるね君も。
「ってようはダーリンは実は誰でもよかった・・・」
ゴスッ
「運命、なの。ね」
は、はいそうです。まったくもってごもっともでするりかさん。
るりかの迫力に僕はそう答えるしかなかった。
ちなみにえみるは・・・そのるりかの裏拳をまともに食らって・・・伸びていた。
◇
「ああ、えみる様!」
・・・そういやえみるってこいつらのボスだったっけ。
ボスであるえみるがあっさりと轟沈してしまったので浮き足立った監視者どもは、あっさりユイさんやキョウコさんに駆逐されていった。
結局何だったんだ、こいつら。
「結局全部君が悪かった、ってことね。」
ああ、ユカさんそんな実も蓋もないこと。
タブリスを復活させる、という監視者の目的はもちろんあったが、その引き金を引いたのが結局えみるであった。
ようするにタブリスにして僕を自分のものにしたかった、そういうことなのだろう。
おっかない話である。
「・・・君が態度をはっきりしない限り、きっと第二第三の永倉えみるが・・・」
ちょっとちょっとキョウコさんってばぁ。
その候補者がここにいっぱいいるんだからさあ。
「安達さん、とかいう人もいたわねえ。」
とユイさん。
そうだ、妙子もいたんだ。すっかり忘れてた。
確かツバサの奴に任せて・・・そっからどうなったんだ?
「ちょっと、酷いんじゃない!それ!!」
「まあまあ、あんな酷い奴のことは忘れて、俺と・・・」
バチーン
しばらくたってこの二人は付き合いだしたというから、世の中分からないものである。
忘れてる、といやあそういや・・・
「うちのお母さんを、忘れてたわね。」
別に怒るでなく、淡々とリツコちゃんがそう言った。
自分の母親をないがしろにされて、別に怒りが湧きあがってこなかったのは、このあとの光景をどこかで予想していたからなのであろうか?
その赤木ナオコさんは・・・タブリスに興味を引かれ、研究に没頭し・・・自分が誘拐された、などと言うことはすっかり忘れていた。
マッドサイエンティストめ。
「いいのかしら姉さん。こんな終わりかたで。」
「いいんじゃない、タブリスの回収、復活の阻止っていう目的は達せられたんだし。別にさ、みんながみんな深刻な顔して生きてく必要はないのよ。こうやって馬鹿やってられる、そんな世界を守るために。・・・辛い思いをするのは、私たちと私たちの子供たちだけで十分。」
「私たちの子ども、か・・・。辛い思いを、させることになるのね。」
そんなユイさんとユカさんの言葉は、その時の僕たちの耳には届いてはいなかった。
そう、ここから先は、もう僕たちの物語ではない。
ユイさん、ユカさん、そしてキョウコさんの、それぞれの意志を継いだ、子供たちの物語、である。
〜エピローグ〜
そして、それから十数年の後。
セカンドインパクト、サードインパクトという二度にわたる大災害が世界を覆ったが、幸運なことに僕らは対した被害もなくそれをくぐりぬけた。
一時僕もネルフという組織に身を置いていたこともあった、そこでいくつか辛いこともあった、が、それはもう、過去の話である。
今となっては、懐かしい、けれどほんの少し痛みを伴う、思い出。
あの、"タブリス事件"と、その時の、修羅場も・・・
「ってあなたねえ、呑気のそんなとこでお茶すすってないで!」
今は僕の妻となったるりかの、そんな声が聞こえてくる、平和な春の昼下がり。
「ちょっとあなた!聞いてるの!?」
「・・・平和だなあ。」
「そうですねえ。」
そう僕の横で一緒にお茶を啜っているのはるりか・・・なわけはない。
「ちょっとるりか!あたしより先にあそこでへばりついてる若菜さんを何とかしなさいよ!」
「明日香を駆逐した後で何とかするわよ!」
「なんであたしばっか目の敵にするの!」
なんか聞こえてくるけど・・・気のせい、だよね。うん。
「いつもいつも、ママも大変よねえ。」
そう子どもらしくない言い方で、これまた子どもらしくない仕種でため息を吐くのは僕とるりかの間に出来た一人娘、夕維。ちなみに名前はユイさんから頂いた。
その夕維が今いるのが若菜のひざの上というところに、今のるりかの苦労を思わせる。
不憫やのう。
「誰のせいよいったい!」
さあ。
「るりかさんもいいかげんにあきらめればいいのに。」
「そうそう、これはこれで楽しい、って思わなきゃね。」
僕の横、若菜とは反対のほうから聞こえるそんな声。
「だから、あたしばっかかまってないで、あっちの真奈美ちゃんとか美由紀さんも何とかしなさいよ!」
そんな"いつも通りの"明日香とるりかのやり取りを、気に止めるでもなく、不意に真面目な顔で若菜が呟いた。
「そういえば、キョウコさんの娘さん、行方不明なんですってね。」
その話は、僕も優から伝え聞いて知っていた。
ちなみにその優は相変わらず日本中、いや世界中を飛び回ってはたまに僕のところに帰ってくる生活を続けていた。
・・・なんで僕のとこに"帰って"くるかね。
ま、まあそれはさておき、どうやら優は冬月のおじさんたちの元にいるようで、その関係からか、キョウコさんの娘さんを陰ながら見守っているようだ。
だから、優は、そして僕も、いろいろなことを知っている。
彼女が姿を消さざるをえなかった、その理由も。
それは・・・
「名前が悪いのよ、名前が。」
「ちょっとるりか、それどういう意味よ!」
・・・落ち着いて悩むことも出来んのか、この環境は。
けれど、きっとこれが平和、というものなのだろう。
いつか、キョウコさんの娘さんにも、こんな日が来るといい、僕はそんな事を考えて、晴れ渡った空を、見上げた。
「って一人でほのぼのとしてるなー!」
◇
「マナ、・・・キョウコさんの娘さんって・・・アスカのことだよね。」
「そうね、シンジ。」
「アスカに"あんな日"が来たとき、修羅場の真っ只中に立たされるのって・・・誰?」
「それはやっぱり・・・シンジじゃないの?」
「やっぱり、僕、なのね。」
おわり
あとがき
妙子:あのぉ、最後って・・・最後えみるさんと私はいったいどうなったんでしょう?
えみる:そうだりゅん!
ジェイ:いやでもねえ。えみるは敵だったわけだし。
えみる;そんなの関係ないりゅん!
妙子:まあえみるさんはそれでいいとして、それで、私は?
ジェイ:う、そ、それは・・・その・・・
明日香:エヴァの通り行くと・・・確か妙子さんの彼氏の名前って洞木くん、でしたよねえ。
るりか:ってことは例の三姉妹のお母さん。つまり・・・
明日香・るりか:少なくとも2015年には死んでる、と。
妙子:ちょっとなによそれは!
ジェイ:ま、まあその辺はあえて触れないってことで、ね。えみると妙子は所在不明、うん。
妙子・えみる:うん、じゃないうんじゃ!
ほのか:それより、問題なのは。
ジェイ:はい、何でしょう?
ほのか:結局私、名前すら一度も出てこなかったんですけど。
千恵:あたしらだって。
夏穂:ちらっと名前が出てきただけ・・・
ジェイ:い、いや、それは・・・その・・・晶だって、出てきてないし・・・ってフォローになってないか・・・
ほのか:晶さんは確か・・・
千恵:あんたが自分のとこでやってる小説で出番があったわよね。
夏穂:それもわりといい役で。
ジェイ:えっとだからその・・・まあお三方には待て外伝、ってことで勘弁してくんない?
ほのか:ちゃんと書くならね。
千恵:書けよ。
夏穂:書いてね。
ジェイ:・・・善処します。はい。
若菜:さて話は変わって終了記念、ってわけではないのですけれど・・・ちょっと疑問があるんですけどいいですか?
ジェイ:はい?
若菜:このおちだったら、なんで私は襲われたんでしょう?
ジェイ:えー、それは、そのー。
明日香:嫉妬ね。
ジェイ:は?
明日香:ようは単に若菜さんに嫉妬してただけなのよ。
るりか:あ、あのねえ。それだったら私が真っ先に襲われるんじゃあ・・・
明日香:ふ、所詮るりかはかりのヒロインであって、真のヒロインは若菜さん、そういうことになってるのよ。
ジェイ:な、なんかいやに刺のある言い方ですなあ。
るりか;それはあれね。ジェイさんが自分のとこで書いてるセンチSSのせいじゃない?
若菜:?それってたしか、明日香さんがヒロインの、ですよねえ?
るりか:のわりに影が薄くって、はしはしで若菜さんが例によっていい目を見てるという。ま、読めば分けるけど。
ジェイ:ってなんかまるでうちんとこの宣伝してるみたいだな、そりゃ。
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
J’s Archeのジェイさんの、
センチ&エヴァ連載シリーズの最終話公開です。
かってに50,000HIT記念での掲載でした。
ジェイさんのところも、めでたく50,000HIT突破と言うことでおめでとうございます。
私のところはココまでくるのに約2年かかっているわけですが、
ジェイさんのところは、1年半ほどで突破したとのこと。
主人公が名古屋に行った理由が・・・・・・・(笑)
とりあえずは一件落着だけど、主人公の苦労は続くのね。
ということで、この物語のその後はジェイさんのHPのHIT記念へと続いていきます。
ジェイさんご苦労様でした。
次回作(外伝?)も期待してます(おい)
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