僕らが再会と新たな出会いを果たしていた頃、別の場所でもまた、なにかが動き出そうとしていた。
 金沢と、高松。
 全く関係のない場所で起きていた、全く関係のない出来事。
 それらがやがて、僕らや、京都の若菜たちを巻き込んで、一つのことになっていくということなど、その時の僕には、知るよしもなかった。


Sentimental Midnight
第五章



 「あら、お客さんかしら。じゃあ美由紀ちゃん、リッちゃんをお願いね。」
 そういって赤木ナオコは立ち上がると、玄関の方へと向かった。
 赤木ナオコ。
 後にMAGIシステムを開発する、天才女性科学者である。
 ここは金沢にある彼女の自宅であった。
 リッちゃん、というのは中学生になる彼女の娘であり、美由紀ちゃん、というのはその家庭教師をしている少女のことである。
 「じゃあリツコちゃん、ここやって見ようか。」
 特にナオコの言動を気にするでもなく、保坂美由紀はそう赤木リツコに話し掛けた。
 しばらくリツコの勉強を見ていた美由紀であったが、ふと、何か違和感のようなものを一瞬感じた。
 そして、
 どこかでガタン、という音がする。
 「なに・・・今の?」
 「さあ?」
 妙な胸騒ぎがして、ミユキとリツコは玄関の方へ向かった。
 そこには、
 「なに・・・これ?」
 開け放たれたままの玄関、散乱している履き物。
 それらはここで何かがあったことを示していた。
 「きっと・・・奴等ね。」
 不意にリツコがそう呟く。
 「リツコ・・・ちゃん?」
 事態が飲み込めない美由紀。
 「母さんはずっと前から狙われていたの。」
 中学生にしてはどこか大人びた口調のリツコ。
 「いかなくちゃ、いけないわね。」
 「どこへ?」
 「こんなこともあろうかと、母さんから教えられていた事があるの。」
 そういって一枚の紙切れを取り出す。
 そこには一つの住所と共に、碇ユイ、という名が記されていた。
 どうでもいいが、リツコのまるで真田技師長のような言葉遣いと雰囲気は、どうやらこの頃からあったようである。




 同刻、高松。
 「ここ、ね。」
 港に下り立つ一人の美女。
 その面影は京都にいる碇ユイに酷似している。
 彼女の名は碇ユカ。ユイの双子の姉に当たる。
 彼女がここにいるのにはもちろん、確固たる理由がある。
 第17使徒タブリス。
 使徒、と呼ばれる謎の生命体、無論ユイやユカたちはそれが"神"のつくりたもうた人間の、別の可能性である事は既に知っていた。
 今の人類が生き延びるためには、この使徒たちに打ち勝たなくては行けない、という事も。
 タブリスは別名"自由意志の天使"とも呼ばれる。
 これは他の使徒たちとタブリスが、どこか一線を画している事を意味していた。
 本来使徒というのは神によって定められたプログラムに従って行動する。
 だが、タブリスだけは違う。
 その名の通り神の制御下にその行動が置かれる事がないのだ。
 ただし、その文彼には実体というものが存在しない。
 行動する権利はあってもそれを行使する肉体を持たないのがタブリスというものであった。
 綾崎若菜を襲った連中の目的も、そして山本るりかと星野明日香の前に現れた謎の怪物も、そこにすべて関連している。
 タブリスの復活。
 そのための第一要素、タブリスの精神は綾崎家に封印されていたが、先にユイから受けた連絡から考えるに、すでにそれは奴等の手の内にある、と考えるのが妥当であろう。
 そうなればその次の段階。つまりはタブリスのための身体を彼らは作り出そうそうとするであろう。
 彼らの行動を見る限りその方法は二つ。
 力、神の血を継ぎし女子を母として、その肉体にタブリスを宿らせる方法。
 もう一つは人工的に生命を作り出す方法。
 現時点ではおそらく、方法として前者の方が確実であろうことは、ユカにも想像はついていた。
 ユカの知る限りタブリスの母体となり得る女性は自分も含めて5人。
 純粋に神の血をひくユカ自身とユイは、おそらく狙われる事はないであろう。
 ユカやユイは世界が滅んだ後、新たな世界を導いていくための、次の時代の神を生み出すために必要な存在であるからだ。
 使徒によって起こされる大破壊、その後次の人類を生み出していくための家系、それが碇の家系である。
 残る三人の内一人はもちろん綾崎若菜である。
 本来監視者、と呼ばれる彼らはその名の通り、碇の血を引くものたちを監視する役割にあり、彼ら自身"神"と呼ばれるものの血を引いている。
 無論その血は薄まっているがその中にあって比較的濃い血を残しているのが、監視者の長、と呼ばれる綾崎家の家系なのである。
 ユカたちにとって救いなのはすでに監視者といえども一部を除いてその意識はなくなっている。
 神の名の元、今ある世界を滅ぼす事。それがか身の血を引くものたちの使命。
 だが人として生を受け、生きてくればそんな事が出来るはずもない。ユイや、ユカがそうであるように。
 それでも、選民思想とでも言おうか、自分が選ばれた民であるなどと言われ、それに躍らされる連中もまた存在する。
 それが今のユカたちが相手にしている"敵"であった。
 その敵の中に、若菜の祖父がいなかったのは、ユカたちにとって不幸中の幸いであったろう。
 そして残る二人。
 一人はユイやユカたち同様碇の血を引くもの。ユカにとっては従妹に当たる少女、である。
 彼女が今どこで何をしているかユカは知らなかったが、彼女がどういう少女であるかは、良く知っていた。
 少なくとも、簡単に奴等の手に落ちるような少女ではない。
 だからといって安心していて良いわけではないが、残る一人のことを考えるとそちらに気を回せないのが現状であった。
 最後の一人、その少女は綾崎家の分家筋に当たる家の少女である。
 もっとも分家筋、とはいえずいぶん昔の話であり、本来なら気に止めるほどのものではない。
 長い歴史の中で綾崎家の血とていくつもに分かれているわけだし、第一その中で血は薄まっていく。
 薄まってしまった血に、用はない。
 だが、隔世遺伝、と言うものがある。
 その少女がまさにそれであった。
 それはゲヒルンと呼ばれる組織から、ユイたちにもたらされたいわば極秘情報であったが、極秘だからといって奴等がそのことを知らない、とは限らない。
 いやおそらくはすでにその情報を掴んでおり、すでに行動を起こしている、と考えたほうが妥当であろう。
 だからこそ、ユカはここにいる。
 その少女の住む、この街に。



第六章へ続く




あとがき

アスカ:どうでもいいけどさぁ、リツコちゃん、って言うのは、ちょっと無理があるわよね。
ジェイ:いきなりなんやねん。
アスカ:いやちょっと、違和感があったもんで。
マナ:気持ちは分かりますけどねえ、リツコさんだって若い頃はあったわけだし。
ジェイ:おいおい。
美由紀:そんなことより、なんか私っておまけみたいじゃないですか、あれじゃあ。
夏穂:出番があるだけいいじゃない。あたしなんかあとがきしか出番ないんだからね。
マナ・アスカ:私らもそう。
美由紀:でも、他の人はみんなたいそうな役割なのに。真奈美さんのパートはやけにシリアスだし。
アスカ:って言うか例によって長々とした説明よね。
ジェイ:しょうがないじゃない、一回はああいうの入れないとわけわかんなくなるんだもん。
夏穂:しかも真奈美パートといいつつ真奈美の名前すら出てきてないし。
美由紀:私の役割〜!
ジェイ:役割〜、っつてもねえ、大体美由紀ちゃんはそう言うけどるりかとか明日香だってたいした役割があるわけじゃないんだけどねえ。ラブコメ要員という以外は。
アスカ;いやあでも、好きな人の傍にいられる、ってのは大きいと思うけどね。
マナ:アスカさんが言うと妙な説得力がありますね(笑)
アスカ:うっさい。







新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。


J’s Archeのジェイさんの、
センチ&エヴァ連載シリーズの第5話公開です。

今回は、保坂美由紀ちゃんと、りっちゃんと碇ユカさんが登場。
え、碇ユカさんて誰?って方は
J’s Archeに連載中のArche
を読んでみてください。

さあ、次回はついに真奈美ちゃん登場?!

続きを速く読みたい方はジェイさんへ感想の
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