いいかげんこんな状況から解放されないかなあ、と、神にも祈るような気持ちの中に僕がいたその時、
 不意に、
 僕の携帯(そんなもんも持ってたんです、そう言えば)の音が鳴った。
 ちなみに着メロは『雲の向こう』(爆)
 「それはつまり私らに暗黒太極拳をしろってこと?」
 るりか、いきなり意味不明のボケをしないでくれ。


Sentimental Midnight
第九章



 まさかまた女の子じゃあるまいな、と恐る恐る僕は電話に出た。
 が、
 『よう!』
 と電話の向こうから聞こえてきたのは聞き覚えのある、男の声だった。
 「なんだ、ツバサか。」
 よく知った、悪友の声に思わず僕はそう答えた。
 『なんだとはなんだよ。まさか女の子からだとでも思ったか?』
 いや、女の子じゃなけりゃいいと思ってた(爆)
 『今どこにいるんだよ。』
 そんな僕の気持ちなどお構いなしに、電話口の向こうの洞木ツバサはそう尋ねた。
 「今?京都だけど。」
 『京都だあ!?何だってそんなとこ・・・』
 「いろいろあったんだよ。」
 説明するのも嫌なことが。
 『なんだ、せっかくおまえを慕って青森くんだりからかわいいかわいい幼なじみが出てきてくれたってのに。』
 ツバサ曰く、ナンパして引っかけた子が、どうやら僕の幼なじみと名乗ったらしい。
 人がこんな状況に置かれてるってのに、ナンパとは。お気楽で羨ましい限りである。
 それにしても、青森で幼なじみってことは・・・
 「お、幼なじみ?あ、青森?・・・ひょ、ひょっとして・・・妙子?」
 いいかげん、自分の不注意さに呆れ返る。
 この状況で女の子名前を口にするってのは・・・自殺行為だよねえ。
 しかもまあ、間の悪いことに。
 『ちょっと彼女と代わるな。』
 『なんで、なんで京都なんかにいるの!?』
 と向こうが妙子に代わったのと同時に、
 「妙子さんて、どなたなんですか?」
 いまだ僕の腕の中にいた若菜が、そう尋ねたからもうたまらない。
 『・・・ちょっと、今女の人の声がしたような気がするんだけど。』
 「えーと、それはその、いろいろとまあ、事情があって・・・」
 考えて見りゃなんで七年も会ってない幼なじみ相手にこんなとこで言い訳しなきゃならないんだろ。
 とは思うが電話の向こうの妙子の声は・・・おっかなかった。
 『どんな事情?』
 だからそれは、ちょっと一口では言えないような、複雑な事情でして・・・
 「どんな事情?」
 だから・・・ってあれ?今の声はなんかすぐそばで聞こえたような・・・
 恐る恐る振りかえると、にっこり、と微笑んだるりかの顔。
 ちょっと、いやかなり恐い。
 「幼なじみさんへの説明はいいですけどねえ、その前に、私に対しての説明が欲しいんだけど。そこであなたにしっかりと抱き着いている人のことも含めて。」
 あからさまに電話に聞こえるように、るりかがそう言う。
 さらに。
 「私はあなたの何?」
 こ、この状態でわたくしにそれを答えろとおっしゃる?(汗)
 『ちょっと!何がどうなってるの!?抱き着いてるってなに?』
 電話口では妙子が怒鳴っている。
 もう数えるのもやになった、何度目の絶体絶命の危機であろうか。
 だが、今回に限ってだけは、神様はいたようだ。
 ただし、魔神だったかもしれないけど。
 『ちょ、ちょっとなによ、あんたたち!』
 「ど、どうした?妙子!?」
 不意に、ただならぬ妙子の声。
 それに続いて、喧騒の音と、どうやらツバサが妙子をかばいながら、逃げようとしているような様子が聞こえてきた。
 「妙子!ツバサ!」
 慌てて呼びかけてみるが無論、応答はない。
 「なに、どうしたの。なに?」
 さすがに何かが起きているのを察知したのだろう、るりかも急に真面目な顔に戻る。
 優も明日香も美由紀も、そして若菜も真剣な表情で成り行きを見守っていた。
 いまだに若菜は僕の腕の中にいたが。
 電話の向こうから『ち、逃がしたか。』と言った声が聞こえ、その直後、
 「おい、聞こえてるな。かわいいかわいい許婚の命が惜しかったら、」
 そこで、いきなり電波状態が悪くなったのか、はたまた向こう(おそらくツバサの携帯だったのであろう)が移動しているのかは知らないが、突然、携帯が入らなくなった。
 惜しかったら、って、惜しかったならいったいなんなんだよ。
 だいたい許婚ってのは、
 「許婚ってのは何?」
 な、なんなんでしょうねえ。
 た、多分小さい頃の約束のことを妙子が拡大解釈しただけなんだろうけど・・・
 拡大解釈、ってのはこっちの都合のいい解釈、だなあ。




 やつらが僕を狙っていて、そのために手段を選ばなくなってきた、というのはどうやら確かのようであった。
 伯父さんに迷惑が掛かることを考え、僕らは若菜の家へと移動し、そこで、碇ユイさんと初めて出会った。
 この人と、そしてもう一人いた六分義ゲンドウという人と、やがて伯父さんが深く関わって行くことを、今の僕たちはもちろん知らない。
 ひとまず、やつらからその後の連絡がないところを見ると、ツバサと妙子は無事に逃げおおせているのだろう。
 とにかく、妙子のことは今はツバサに任せるしかない。
 僕は、僕にやれることを・・・
 「まずは説明ね。」
 「ちょっと星野さん、当たり前のように仕切らないでよね。一応私が正当な恋人なんですからね。」
 「一応、ね。」
 明日香とるりかの応酬に、優が意味ありげに呟く。
 「大変そうだな、向こうは。」
 「こっちも、大変そうにしてあげましょうか?」
 そう呟くゲンドウさんに、キョウコさんがそう微笑む。
 横でユイさんが面白くなさそうな顔をしているところを見ると、この二人もやっぱり、そんな関係なのだろう。
 ついでにリツコちゃんもなにやら思案顔でゲンドウさんの顔を見ていたのだが・・・取り合えず今はそれは関係ない話である。
 あっちはあっちで、大変そうだなあ。
 それはとにかくおいといて、おっかない顔したるりかや明日香、不安げな顔で僕を見つめている若菜や美由紀、相変わらず何考えてんだかよくわからない優と、反応様々な面々に、とりあえず面倒なので僕は今までのことすべてを語って聞かせはじめた。
 妙子との約束の話、若菜との初恋のこと。そういったことのすべてを、包み隠さず僕は話して聞かせた。
 だって、そうしないとみんな納得してくれないんだもの。
 もっとも、納得したからといって状況が好転するわけでもないんだけど・・・
 って言うかだんだん空気がぴりぴりとしてきたような気が・・・
 若菜は若菜でさっきからずっとしがみついたままだし、それに対抗してるりかまで僕に引っ付いてるし、明日香と優は冷たい目で睨んでるし、美由紀は今にも泣き出しそうだし・・・
 そんな針のむしろ状態のまま、ようやく明日香のところまで説明を終えたとき、
 「あら姉さん、おかえりなさい。」
 誰かが帰ってきた音が聞こえ、ユイさんがそう言いながら振り返った。
 そこには、ユイさんのお姉さんである、ユカさんが、一人の少女と共に立っていた。
 その少女は・・・
 ちょうど今から説明するところだったんだけどねえ。
 なんつーいいタイミングなんでしょ。



第十章へ続く



あとがき

若菜:うふふ。
明日香:うれしそうねえ。
るりか:そりゃ嬉しいでしょうねえ。今回若菜さん、結局はじめから終わりまで彼に引っ付いてたわけだし。
真奈美:でも次回はそうはいきませんよ。
ジェイ:ま、真奈美ちゃん、いきなり出てきてその自信はいったい何?
真奈美:だってほら、いよいよ私の登場ですから。
美由紀:出てきたからどうなるってわけでもないけどね。私なんか・・・
アスカ:ま、こいつの書く話は必ず一人ぐらい割に合わない目を会う奴が出てくんのよ。
美由紀・アスカ:はあ。
ジェイ:という脇役二人はおいといて、
若菜:その自信の根拠は、
マナ:いったいどこから出てくるわけ?
真奈美:え?だって私って隠れ大本命なんじゃないんですか?
明日香:ど、どっからそんな話が出てくるのよ。
優:私の知る限り作者の好みは、一押し若菜、二押しるりか、三押し明日香、だと思ったんだけどねえ。
ジェイ:そうそう、エヴァでもセンチでも”あすか”は三番目、ってことで。
マナ:エヴァで三番目じゃたいして意味ないじゃないですか。
ジェイ:うん、ないよ。
優:ま惣流アスカへの扱いの問題はもはや結論が出てる話なんでおいとくとして、だから杉原さんのその自信はいったいなんなんだい?
真奈美:え、だって、ジェイさんはマナリアンだって言うから・・・
マナ・るりか・明日香・若菜:それは霧島マナのマナ!!
真奈美:えー!?杉原真奈美のまなじゃないんですか?
ジェイ:な、なんだかイメージと違うな、この子。










新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。



J’s Archeのジェイさんの、
センチ&エヴァ連載シリーズの第9話公開です。

上京して早速にナンパされる妙ちゃんもなんだが、
ナンパしたのが主人公の友人の
洞木くん...(^ ^;;;

あれ、洞木ってどっかで聞いたような苗字だね(爆)

真奈美ちゃんも登場で、どうなる主人公!?

続きを速く読みたい方はジェイさんへ感想のメールを。


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