気になる二人
第3話
次の日、俺は重い気持ちで登校した。
多佳子にどんな顔して会えばいいんだ?
「おはよう。瀬谷くん」
2−1の下駄箱で声をかけられた。この声は、多佳子・・・と振り向く。
「多佳・・・・子?」
「うんっ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
俺は何も言えなかった。
たしかに多佳子なのだが、しかし・・・
「え?、ああこれ? 似合うゥ?」
多佳子のショートカットの髪がゆれる。
多佳子の腰まであったきれいな髪がばっさりと切られていた。
「おまえっ・・・・それなんでっ・・・もしかして」
「やだぁ、瀬谷くんってば。失恋したからじゃないわよ。」
だってそれじゃあ。
「最初から・・・こうしておけば良かったと思って。そうすれば私達のこと誰も間違えたりしなかったでしょ?」
そ、それはたしかにそうだが。
「それじゃ、先行ってるね。」
といって、多佳子は髪を揺らしながら行ってしまった。
残ったのは呆然たたずむ俺・・・・・・・・
☆
多佳子のイメージチェンジは、思いのほか好評のようだ。
「似合うよ、それ。」
「ありがと」
多佳子が友人と話している。
「たしかに、あれなら誰もあの双子のこと間違えねーよな。」
「しかし、女って思いきったことすんのなー」
「でも、何があったんだろ・・・、失恋でもしたのかな。なあ孝幸」
俺の周りでも、多佳子の話題で盛り上がっていた。お、俺にふるなぁ
「あ、ああ。どうだろうな?」
おれは、知らん顔して答えた。
間違えられないようにって・・・・・本当かよ。
だってそんなの今に始まったことじゃないだろうに。
俺は、一日中、そのことで頭がいっぱいだった。
☆
「孝幸ぃ−、授業終わったぞぉ。部活行かね−のか?」
「またなー」
俺は、ボーとしながら答えた。
ほんと、女ってなに考えてんだろうな。
俺は、帰り道ながらにそんなことを考えながら歩いていた。
しかしまた、部活さぼっちまった。
あれ、そう言えばこの辺って・・・今の時間だと有佳子がいるはずじゃ・・・・
あれ、変だな、あんまり嬉しがってないみたいだ。
やっぱり・・・多佳子のせいかなぁ。いきなりあんなマネするから妙に気になって仕方が無い。
うーん・・・・・・。
「おじさーん」
グラウンドの子供がこっちに声をかけた。
「あ?」
思わずそちらへ振り向くと、子供が続けて叫んだ。
「うーしーろー」
後ろ?と思った瞬間に”ガツ”っと大きな音とともに後頭部に衝撃が走る。
こ、この痛みは・・・・・
「・・・・・いってぇ・・・・・・」
「えーっ、またあたっちゃったよーっ」
悪かったな。またで!
バカヤロー、反対側から声かけるんじゃね−よ。
「ごめんねぇ、今の私のボールなんだ。」
ビクっ、この声は。
なんだよ、これって、まるであの時と同じ・・・・・・
「有佳・・・・・」
振り向きながら途中まで言いかけた俺は絶句した。
「大丈夫ぅ?瀬谷くん。」
短い髪をした女の子が心配そうにこちらをみている。
そこにはショートカットの有佳子がいた。
あれ、ショートカット?
「・・・・・・・・・・・・」
「どうしたの?」
もしかして・・・・・
「多佳子・・・・・」
・・・だよな。間違えるわけない。この頭。
でも、ここにいるってことは・・・
「なにボケてんだよ、おっさん。多佳ちゃんのボールに2回もぶちあたったんでどっかきれたのか?」
グラウンドから俺に声をかけたガキが言う。
2回・・・・
そうだよ、あの時、名前を確かめたわけじゃない。と、いうことは・・
「それじゃあ、今まで妹だと思っていたのって、ひょっとして・・?。」
多佳子ーー!?
「あの日も・・・今日のように名ざしで呼べばよかったね。瀬谷くんって。そうすればすぐわたしのほうだってわかったでしょう?」
どうりで、2人が同じだと思うワケだよ。どちらも多佳子なら当たり前じゃねーか。
「・・・だったら」
「え?」
「だったら何で言わなかったのさ。わかってたんだろ?俺が間違えてるの」
「・・・昨日ね。でも同じ顔してるのよ。行ったところで簡単には信じられないと思って。」
あ、そうか、確かにそうだよな。それは自分だって言ったって、同じ顔だもんな。
今ならはっきり区別できるから信じられるけど・・・・ん?
「ちょっと・・・まてよ。」
「え?」
「それじゃあ、それ切ったのってひょっとして・・・俺が区別できるように!?」
一瞬彼女の顔が固まったあと、笑顔で言った。
「ちがうよぉ。コレ長いのにあきたからだよ。」
「・・・へ?」
「それほら、夏になるのにうるさいでしょ。」
「なに・・言ってんだよ。いいんだぜホントのこと言っても。」
そうだよ。悪いのはこっちじゃないか。
「ウソじゃないもーんっ」
多佳子は、軽く肩を叩きながら反論する。
「わ・・・わかった、わかったから」
そう…そうなんだよな…このお人好しが、俺が困るのを知りながら、本当の事なんか言うはずないよな−−−
きゅ… おれは、彼女を軽く抱きしめながらいった。
「ごめん。ほんとにごめん。」
「えっ…どうしてぇ?ウソじゃないのに。ホントよぉ」
わかってるさ、あんたがそういうやつだってこと…
そうやって相手のためにウソをついて、多分死んだって本当の事なんか追わないんだろう。
「ねぇ…だったら約束を守ってよ。」
「約束?」
「もし…ボールをぶつけたのが私だったら……好きになってくれるんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・」
俺達はお互いに顔を見合わせて、微笑み合った。
そして、俺は、彼女の顔に近づけて…
特別の言葉に勲章を添えて…君に送ろうと思う。
FIN
あとがき
ユーリです。
やっと完結しました。
まあ、ハッピーエンド・・・・ですね。
この小説の元は、佐柄きょうこさんの”ウソつきには勲章を”です。
まんまともいいますが。
FC(フラワーコミック)のTONBI!ジェネレーション第6巻に収録されています。
初めてこの漫画を読んだときには見事に引っかかりました。
興味があったら、佐柄きょうこさんのコミックをよんでみてくださいね。
ユーリさんからのオリジナル系小説最終話です。
私も佐柄きょうこさんのFC(フラワーコミック)は全部持っています。
TONBI!ジェネレーションは、オリジナルアルバム(CD)も出てるんですよね。
ユーリさんへの感想メールは、私当てに下されば転送します。