気になる二人

第3話


 

次の日、俺は重い気持ちで登校した。
多佳子にどんな顔して会えばいいんだ?

「おはよう。瀬谷くん」

2−1の下駄箱で声をかけられた。この声は、多佳子・・・と振り向く。

「多佳・・・・子?」
「うんっ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

俺は何も言えなかった。
たしかに多佳子なのだが、しかし・・・

「え?、ああこれ? 似合うゥ?」

多佳子のショートカットの髪がゆれる。
多佳子の腰まであったきれいな髪がばっさりと切られていた。

「おまえっ・・・・それなんでっ・・・もしかして」

「やだぁ、瀬谷くんってば。失恋したからじゃないわよ。」

だってそれじゃあ。

「最初から・・・こうしておけば良かったと思って。そうすれば私達のこと誰も間違えたりしなかったでしょ?」

そ、それはたしかにそうだが。

「それじゃ、先行ってるね。」

といって、多佳子は髪を揺らしながら行ってしまった。

残ったのは呆然たたずむ俺・・・・・・・・


多佳子のイメージチェンジは、思いのほか好評のようだ。

「似合うよ、それ。」
「ありがと」

多佳子が友人と話している。

「たしかに、あれなら誰もあの双子のこと間違えねーよな。」
「しかし、女って思いきったことすんのなー」
「でも、何があったんだろ・・・、失恋でもしたのかな。なあ孝幸」

俺の周りでも、多佳子の話題で盛り上がっていた。お、俺にふるなぁ

「あ、ああ。どうだろうな?」

おれは、知らん顔して答えた。

間違えられないようにって・・・・・本当かよ。
だってそんなの今に始まったことじゃないだろうに。

俺は、一日中、そのことで頭がいっぱいだった。


「孝幸ぃ−、授業終わったぞぉ。部活行かね−のか?」
「またなー」

俺は、ボーとしながら答えた。
ほんと、女ってなに考えてんだろうな。

俺は、帰り道ながらにそんなことを考えながら歩いていた。
しかしまた、部活さぼっちまった。
あれ、そう言えばこの辺って・・・今の時間だと有佳子がいるはずじゃ・・・・

あれ、変だな、あんまり嬉しがってないみたいだ。
やっぱり・・・多佳子のせいかなぁ。いきなりあんなマネするから妙に気になって仕方が無い。
うーん・・・・・・。

「おじさーん」

グラウンドの子供がこっちに声をかけた。

「あ?」

思わずそちらへ振り向くと、子供が続けて叫んだ。

「うーしーろー」

後ろ?と思った瞬間に”ガツ”っと大きな音とともに後頭部に衝撃が走る。
こ、この痛みは・・・・・

「・・・・・いってぇ・・・・・・」

「えーっ、またあたっちゃったよーっ」

悪かったな。またで!
バカヤロー、反対側から声かけるんじゃね−よ。

「ごめんねぇ、今の私のボールなんだ。」

ビクっ、この声は。
なんだよ、これって、まるであの時と同じ・・・・・・

「有佳・・・・・」

振り向きながら途中まで言いかけた俺は絶句した。

「大丈夫ぅ?瀬谷くん。」

短い髪をした女の子が心配そうにこちらをみている。
そこにはショートカットの有佳子がいた。
あれ、ショートカット?

「・・・・・・・・・・・・」
「どうしたの?」

もしかして・・・・・

「多佳子・・・・・」

・・・だよな。間違えるわけない。この頭。
でも、ここにいるってことは・・・

「なにボケてんだよ、おっさん。多佳ちゃんのボールに2回もぶちあたったんでどっかきれたのか?」

グラウンドから俺に声をかけたガキが言う。

2回・・・・
そうだよ、あの時、名前を確かめたわけじゃない。と、いうことは・・

「それじゃあ、今まで妹だと思っていたのって、ひょっとして・・?。」

多佳子ーー!?

「あの日も・・・今日のように名ざしで呼べばよかったね。瀬谷くんって。そうすればすぐわたしのほうだってわかったでしょう?」

どうりで、2人が同じだと思うワケだよ。どちらも多佳子なら当たり前じゃねーか。

「・・・だったら」
「え?」
「だったら何で言わなかったのさ。わかってたんだろ?俺が間違えてるの」
「・・・昨日ね。でも同じ顔してるのよ。行ったところで簡単には信じられないと思って。」

あ、そうか、確かにそうだよな。それは自分だって言ったって、同じ顔だもんな。
今ならはっきり区別できるから信じられるけど・・・・ん?

「ちょっと・・・まてよ。」
「え?」
「それじゃあ、それ切ったのってひょっとして・・・俺が区別できるように!?」

一瞬彼女の顔が固まったあと、笑顔で言った。

「ちがうよぉ。コレ長いのにあきたからだよ。」
「・・・へ?」
「それほら、夏になるのにうるさいでしょ。」
「なに・・言ってんだよ。いいんだぜホントのこと言っても。」

そうだよ。悪いのはこっちじゃないか。

「ウソじゃないもーんっ」

多佳子は、軽く肩を叩きながら反論する。

「わ・・・わかった、わかったから」

そう…そうなんだよな…このお人好しが、俺が困るのを知りながら、本当の事なんか言うはずないよな−−−

きゅ… おれは、彼女を軽く抱きしめながらいった。

「ごめん。ほんとにごめん。」
「えっ…どうしてぇ?ウソじゃないのに。ホントよぉ」

わかってるさ、あんたがそういうやつだってこと…
そうやって相手のためにウソをついて、多分死んだって本当の事なんか追わないんだろう。

「ねぇ…だったら約束を守ってよ。」
「約束?」
「もし…ボールをぶつけたのが私だったら……好きになってくれるんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・」

俺達はお互いに顔を見合わせて、微笑み合った。

そして、俺は、彼女の顔に近づけて…

特別の言葉に勲章を添えて…君に送ろうと思う。

 

 

FIN

 

 

あとがき

ユーリです。
やっと完結しました。

まあ、ハッピーエンド・・・・ですね。

この小説の元は、佐柄きょうこさんの”ウソつきには勲章を”です。
まんまともいいますが。

FC(フラワーコミック)のTONBI!ジェネレーション第6巻に収録されています。

初めてこの漫画を読んだときには見事に引っかかりました。

興味があったら、佐柄きょうこさんのコミックをよんでみてくださいね。


ユーリさんからのオリジナル系小説最終話です。

私も佐柄きょうこさんのFC(フラワーコミック)は全部持っています。

TONBI!ジェネレーションは、オリジナルアルバム(CD)も出てるんですよね。

ユーリさんへの感想メールは、私当てに下されば転送します。

 


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