その翌日。
 昨日までの空模様とは打って変わり、青空が空を被っていた。
 「台風一過、とは良く言ったものね。」
 少女はそういって、青く澄み渡った空を見つめた。
 「今日は、暑くなりそうね。」
 そう言って彼女は、ちょうど来た電車に飛び乗る。
 「兄さんに会うのも、久しぶり、か。」
 そう呟くと、彼女は空いている席に腰掛け、兄の写真を取り出す。
 行き先は、第3新東京市。



新世紀エヴァンゲリオン
Irregular Episode


Cain
〜鏡の中の絆〜
The girl who reflected in mirror,What is your name?





−2−



 「あー、転校生を、紹介します。」
 台風一過のその朝は、そんな老教師の一言から始まった。
 「へー転校生ねえ。」
 あきれているような驚いているような、そんな声をアスカが上げる。
 「こんな時にこんなとこに転校してくるなんてねえ。」
 そうシンジに話し掛けるその声には、ほんの少し、刺がある。
 「な、なんだよアスカ。」
 「別に。」
 別に、と入ったが、明らかにアスカの中には、複雑な想いがある。
 無論、それにシンジが気付くことは、ない。
 「女の子らしいぜ。」
 「かわいい子やとええなあ。」
 どこで情報を仕入れてきたのか、そんな話で盛りあがるケンスケとトウジ。
 そして、
 「鈴原!なに馬鹿なこと言ってんの。」
 明らかに嫉妬に燃えているヒカリ。
 無論、こちらもまた、トウジが気付くことはない。
 「さ、入って。」
 そんな生徒たちのやり取りなどお構いなく、老教師は少女を招き入れる。
 「ああー!」
 その少女を見て、不意にシンジが叫び声をあげる。
 「な、なによ。」
 そういうアスカの声も、今のシンジには届いていない。
 「あの・・・えっと・・・」
 そんなシンジの態度に、しかし少女は困惑の表情を浮かべただけであった。
 「あの〜、どこかでお会いしましたっけ?」
 「あれ、人違い、かな・・・」
 「私、名取ミハルって言います。よろしくぅ!」
 「あ・・・」
 その名を聞いて、少々シンジはばつの悪そうな顔をする。
 「知ってる人に、似てたもんで。」
 「それって、ひょっとしてナンパですかぁ?」
 「ま、確かに、良く使う手ではあるよな。」
 ミハルの問いに、ケンスケが更に煽るような言い方をする。
 当然、一番面白くないのは、アスカである。
 「ったく、転校生って聞くと見境なく手を出すんだから、シンジは!」
 「な、な言ってんだよ、そんなこと・・・」
 だが、ない、と言いきれないのがシンジの痛いところでもあった。
 「・・・あれは別に僕が手を出したわけじゃあ・・・」
 「なに!?」
 怖い顔をして睨むアスカに、何も言えなくなるシンジ。
 「あんたも気をつけなさいよね!こういう男なんだから、バカシンジは!」
 ミハルの方に向き直り、アスカが怒鳴る。
 それが焼き餅だということは、シンジ以外は全員知っていた。
 だが、
 「シンジくんっていうんだ・・・、よろしくね、シンジくん!」
 そんなアスカの気持ちなど意に介せず、ミハルは笑顔を振りまく。
 そして、
 ぐるりと教室を見渡す彼女の視線が、ある一点で止まる。
 「綾波さん・・・」
 一瞬、表情を曇らせたミハルであったが、すぐにはじけるような笑顔に変わる。
 「綾波さ〜ん!」
 そのミハルの挙動に、いっせいに視線がレイへと集まる。
 が、そのレイの態度は、いつもと変わることはない。
 「よろしく!綾波さん。」
 そんなレイの態度など意にも介さず、ミハルは元気よく声を張り上げた。
 「よろしく。」
 周りの者にとって意外なことに、そのミハルにレイは返事を返す。
 口振りは素っ気無く、感情もこもってはいない。いつものレイの口調、といえば確かにそうなのだろうが、返事を返す、というその点だけでも平時のレイではとても考えられないことである。
 「綾波の・・・知り合い、なの?」
 なぜかおそるおそる、といった感じで、シンジがレイに尋ねる。
 「ええ。」
 素っ気無いレイの返事。
 「友達、なの?」
 「あの子は、私と同じなの・・・」
 その言葉の意味はシンジにはわからなかった。




 「しっかしなぁ、シンジがあんな大胆だとは思わなかったなあ。」
 帰り道、ケンスケがそう呟く。
 あんな、とはもちろんシンジのミハルに対する反応のことである。
 「だからあれは・・・本当に知り合いの人に似てて・・・」
 おそらくそれは真実であろうし、それはケンスケもわかってはいる。わかっててそう言っているのだから始末が悪いのだ。
 「名取さん、かわいかったもんなあ。」
 嫌味っぽくシンジの方を見るケンスケ。
 当然そんなやりとりに、一緒にいるアスカの機嫌は、良いはずがない。
 学校からこっち、ずっと無言のままシンジの方を睨んでいた。
 そうまでされればむろんシンジとてアスカが不機嫌であることぐらいはわかるし、居心地の悪さは感じているのだが、その不機嫌の原因には思い至らない。
 その鈍感さが更にアスカの機嫌を損ねていることも。
 「それにしても意外やったなあ、あの綾波が。」
 別段シンジを助けようと思ったわけではないのだろうが、唐突にトウジが話を変える。
 「そうだね。」
 話がうまく逸れたので、どこかほっとしたような風にシンジは答えた。
 「結局帰りまで一緒やったかたらなあ、綾波がシンジや惣流以外の人間と一緒に帰るなんてはじめてみたわ。」
 そう言われてみればそうである。
 シンジやアスカとて、まあ心の中ではシンジには、100歩譲ってレイの側にも一緒にいたいといった、恋愛感情かどうかはともかくそういう感情はあるにせよ、表から見ればそれはネルフの人間だから共にいる、と行った仕事的ナものから抜けきってはいない。
 シンジがトウジやケンスケとつるんだり、アスカがヒカリと一緒にいる、というのとはわけが違う。
 そういう関係がないのが、今までの彼らの知る綾波レイなのだ。
 「名取ミハル・・・か。」
 どんな子なんだろう。呟いてそう考えるシンジ。
 そんな態度がいちいちアスカの癇に障る。
 アスカとてどちらかといえば気長な方ではない。
 いや、はっきり言って短気である。
 ここまで我慢してたのが奇跡でもあった。
 焼き餅を焼いているように思われるのがいやだから、我慢してきたとも言える。
 端から見れば嫉妬以外のなにものでもないのだが。
 そんなアスカの我慢もやはり限界らしく、シンジに対し怒鳴り散らそうとした、その時。
 「あれ、名取さんじゃないか?」
 ふと、ケンスケがその存在に気付く。
 「え、でも・・・髪型とかちがくない?」
 確かに、髪型が先程までと違う。
 ミハルが、髪を二個所でまとめていたのに対し、その少女は長い髪を後ろで一つに束ねていた。
 「アンタバカァ!?髪型なんていくらでも変わるわよ!短い髪が急に伸びた、とか言うわけじゃなし。二つにまとめていたのを一つにしただけじゃない!」
 確かにアスカの言うことはもっともではある。だが、
 「シンジ!?」
 アスカが大声を張り上げたため、その少女もこちらに気付いたらしく、声を掛けてくる。
 シンジの名を、呼んで。
 「ミユ・・・キ?」
 「やっぱりシンジ!こんなところで会えるなんて。」
 そういって微笑んだ少女の顔は、確かにシンジの記憶の中にあった。
 幼なじみの少女。
 その名を、青葉ミユキという。



つづく







新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。




Cain 第2話 いただきました。

転校してきたミハルとミハルにそっくりなシンジの幼なじみミユキ
この二人の関係は?
でも青葉って...?


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