真奈美とベルトーチカが向かった先、連邦軍オークリー基地。 その、基地司令室では、今、二人の男が深刻そうな顔で、向かい合っていた。 「ティターンズのやり方が正しいなどとは、無論思ってはいない。」 机に肘を突き、瞳は虚空を見詰めたまま、コジマ大佐はそう、うめくように呟いた。 「ならば。」 立派な髭を貯えた、もう一人の男が、このオークリー基地司令であるコジマに詰め寄る。 「確かに、この基地にいる連中は、現在の連邦、いやティターンズに、というべきかな、奴等ににらまれてるような、そんな連中ばかりだ。それも、素行が悪いとかそういう話ではない。ティターンズに対して反逆の可能性がある、そういう連中の、な。」 「そんな現状に、連中とて満足しているわけではないのだろう?だったらなおの事、我々と、」 更に言葉に熱を帯びた男に、コジマは一つため息を入れると、 「そんな連中を、あえて一つのところに集めたティターンズの意図を、分からぬおまえさんでもあるまい?何もない辺境の基地、だが、その気になればモビルスーツの数機ぐらいはある。我々が反乱を起こすのを、奴等は手薬煉を引いてまっているんだよ。大体、おまえさんが何事もなくここまでこられるという事だけでも、我々が奴等の手のひらの上で踊らされているってのがわかるってもんだ。なあ、ブレックス。」 そう冷静に話すコジマの言葉は、確かに正しい。 今、コジマと話しているその男−名を、ブレックス・フォーラという−は連邦軍の将校ではあったものの、明らかに現行の上層部に疎まれている、いや疎まれているどころの騒ぎではない、ほとんど反逆者のような扱いを受けていた。 スペースノイドに肩入れし、ティターンズに対し面を切って異を唱えてみせれば、現行の体制下では、確かに反逆者呼ばわりされても仕方ない事であろう。 挙げ句、なんだかんだと理由をつけられ、更迭される羽目となったブレックスであったが、その直後、彼は謎の失踪をとげていた。 その彼の失踪に、旧ジオンの影が見え隠れしているという噂があれば、連邦、いやティターンズが彼を躍起になって探し、拘束しておきたいと思うのはしごく当然の事であろう。 そんなブレックスが、コジマの言うように"反乱分子の温床"とも言えるこの基地に、無事に辿り着けるという事が何を意味しているか、それは明白であった。 だいたい、コジマ大佐自体ティターンズにしてみればブラックリストに載るような人物である。 一年戦争時代、彼の部下の一人が敵前逃亡をしていた。 それも、単なる敵前逃亡ではない。 よりにもよって、ジオンの女パイロットと駆け落ちまがいのような事を、してみせたのである。 部下がそんな事をすれば、当然上司である彼も責任は免れないところである。 しかも、明白にそうとは言いはしなかったものの、そんな部下の行動を、どこか容認するような言動すら、コジマはその時見せていた。 その戦いで直属の将官が戦死し、レビル将軍亡き後良識派の筆頭とも言える将軍であったコーウェン中将が彼の後見となったため、どうにか"ジャブローを追い出される"程度の処分で済みはしたものの、それでもそういう"経歴"は、ティターンズにとって憂慮するに足る代物であった。 そして、先のコロニー落しに絡む一連の事件で、コーウェン中将が失脚し、彼はこの基地に"飛ばされて"来たのである。 そんな経緯に付け加えて、コジマ大佐とブレックスは、旧友でもあった。 そうであるなら、ティターンズの監視の目をくぐりぬけて、当のブレックスがここまで来れるという事が、普通ならありえない事だと、わかるのである。 「だいたい、単に昔の友人だから、あるいはわしやここの連中なら協力するから、その理由だけで危ない橋を渡ってきたわけでもあるまい?」 そのコジマの問いに、ブレックスは答えなかった。 第四話 『予感』 ティターンズをこのままにはしておけない、だが、そのティターンズを抑えるためには、一人でも多くの協力者が必要であると同時に、一機でも多くのMS、一隻でも多くの艦が、必要であった。 一応、アナハイムエレクトロニクスが影で協力を約束してはくれているものの、早急に軍備を整えなければ使えるものはなんでも使わなければ、やっていけないのである。 そして、このオークリー基地には、それが、あった。 「当の基地司令たるわしとて、つい最近知った。この基地の地下に、宇宙戦艦のドックがあって、あんなもんが置いてあるなんて事をな。その情報を、いったいおまえさん、どこで手に入れたんだ?」 そんなコジマの言いようは、ブレックスの情報収集能力を褒め称えてのものではない。 ティターンズ統治下の機密保持は、かつての連邦の比ではなかった。 そもそもかつての連邦とて、そうやすやすと機密が漏れていたというわけではない。 件のコロニー落しのその引き金となった一つの事件がある。 それはオーストラリアのとある基地から、一機のMSと、そして一発の核弾頭が強奪されるという事件であった。 それも、ジオンの残党を名乗る、手のものによって。 そこだけ見れば、連邦の情報がジオンに筒抜けのように見えるが、実際、その核弾頭の存在がジオンに知れたのは、一年戦争の頃の事であって、戦中の混乱の中での事である。 戦中だから情報が漏れやすい、という事はない。 むしろ、戦中であるからこそ、情報の漏洩には必要以上の気を遣うものではあるが、その中で優先順位というものもある。 核兵器の存在というものが優先順位として低いというのはおかしな話であるが、当時連邦は幾分優勢になりつつあり、徹底的にジオンを叩かなければならないという状況下では、"後方の基地にあった"核の存在よりも今目の前の作戦行動の方が重要だった、という事もあったかもしれない。 あるいは、連邦の作戦を察知しようとして、偶然、ジオンがこのことを知った、という事もあったかもしれない。 どちらにせよ戦争などというものをやっていれば、不確定要素は出てくるし、その中で優先順位が相対的に低くなってしまったものが漏れてしまうという事もあるという事なのだ。 そういうことをかんがみるなら、この基地に隠されている"例のもの"の情報がブレックスに渡った、というのは、意図的にリークされたものではないかという、そんな危惧が浮かんでくるのである。 「あの事件の際、あの機体を駆ったパイロットがこの基地にいる、それも、おそらく偶然ではないのだろう。」 うかつな行動をとれば、自分たちの首を即座に絞める事になる。 それがあるから、コジマはブレックスの、共に戦おうというその言葉に、首を縦に振る事は出来なかった。 無論、そういうコジマの立場も、状況も、分からないブレックスではない。 彼とて、彼なりに策もあれば切り札も、あった。 「なら。」 そう、ブレックスが切り札を切ろうとした、その時、 コンコン、と誰かがドアを叩く、音がした。 「あのー、コジマ司令・・・」 状況が状況であったから、とっさに二人は身構えたが、そんなどこか間の抜けたような声とともに現れた一人の青年の姿に、一瞬で緊張感などは吹き飛んでしまった。 青年はもちろん、この基地に勤務する、コジマの部下の一人であった。 「キース少尉、いったいなんだね、こんな時に。」 ほっとしながらも、この状況をわきまえない部下に、少々あきれたようにコジマは問い掛けた。 「はあ、あの、スギハラ議員のお嬢さんが、今見えられているんですけど・・・」 やはりどこか間の抜けた声で、チャック・キース少尉がそう説明をする。 「スギハラ?スギハラというと、ああ、彼か。」 そのキースの言葉に反応したのは、ブレックスである。 "失踪する"以前には多少なりとも政界にも顔を出していたブレックスであったし、件のスギハラという男は、割と将来を嘱望されてもいて、しかし、その立場に甘んじる事もなく、スペースノイドのために腐心するような人物でもあったから、ブレックスも非常に良い印象を抱いていた。 もっとも、ブレックスのような人物が好印象を抱く、という事は同時にティターンズの連中には疎まれるような人物であるという事でもあるのだが。 「そうか、彼には確か一人娘がいたな・・・」 思い出したようにそうブレックスは続ける。 「ん、ああ、マナミちゃん、といってな。父親共々この辺鄙なところで暮らしとるよ。なかなか可愛らしい子でな、うちの基地じゃちょっとしたアイドルだ。もっとも、そのせいでキース少尉などは生傷が絶えんようだが・・・」 「はあ、まあ。ええ。」 無論、悪いのは真奈美本人ではなく、真奈美を見て鼻の下を伸ばしているキースである。 「で、そのマナミちゃんが、どうしたんだね?」 「はあ、何か・・・感じるとか、何とか・・・いやな予感というか・・・」 要領を得ないキースの言い方に、コジマはあきれたような顔を見せたが、対照的に、ブレックスの表情は真剣味を帯びていた。 「どういう子なんだ、その子は?」 「ああ、ちょっと感受性が強いというか、勘がいいというか、そういうところがあるな。」 何気なく、コジマはそういったが、ブレックスの表情は崩れなかった。 「ちょっと、その子に、会ってみたいものだな。」 突然のそんな申し出に、一番意外そうな表情を見せたのはコジマであった。 「あ・・・えっと・・・」 コジマ大佐なら、父親経由で何度か会った事もある真奈美であったが、そのコジマとともに現れた男の事は、知らなかった。 元来が病弱なゆえからか、どちらかといえば引込み思案で、人見知りをしてしまうのが真奈美という少女である。 「私は、ブレックス・フォーラという。君のお父上とも知り合いだ。心配しなくていい。」 そんな真奈美の様子を見て取ってか、ブレックスは彼女にそう自己紹介した。 初対面のものに心配いらない、といわれても普通ならそうそう警戒心を解けるものではないのだが、真奈美という少女にとっては、そんなたった一言は、十分なきっかけになるものであった。 それは、真奈美が他人に対する警戒心が薄いという事ではない。 「そう、みたいですね。」 ブレックスの瞳を真っ直ぐ見返しながら、小さな声で真奈美はそう言った。 まだ幾分かの緊張は見られたが、明らかに、ブレックスに対して過度の警戒はしていない風に、その姿は見える。 『なるほど、な、』 そんな真奈美の姿に、ブレックスは一人納得する。 そして始めて、ブレックスは周りを見渡した。 食事時ではなかったため、閑散としている食堂には、真奈美のほかにキースと、マナミの友人と思しき民間人の少女、それとエンジニア風の二人の女性、一人は大柄で、もう一人は金髪の、美女である。 そして、もう一人、キースの同僚でもある、一人の青年がいた。 ブレックスは、その青年を、知っていた。 直接の面識はなかったが、連邦軍にいて、なおかつ自分のような立場にいる人間なら、知っているはずの、青年であったからである。 どこか頼りなさげな印象でありながら、何か、内に秘めたものを持つ不思議な青年。 真奈美やベルトーチカとも親しく、そして彼女たちが頼った、その青年でもある。 この青年にも、ブレックスは多大な関心を持っていたが、とりあえず今は、真奈美の方に向き直ると、彼女に優しく問い掛けた。 「キース少尉から聞いたが、何か、感じるのだそうだね?」 いきなりのその問いに、少々戸惑いの表情を見せた真奈美であったが、横にいる友人−もちろんベルトーチカである−と何やら目で合図を交わすと、静かに口を開いた。 「はい・・・。宇宙(そら)で、何かが起きようとしている様な・・・そんな感じがするんです。なにかとても、良くない事が・・・」 普通なら、たかだか一少女のそんな戯言を、いっぱしの軍人が真に受けるものではない。 だが、ブレックスはこの真奈美という少女に感ずるものがあった。 それは今、彼が行動をともにしているクワトロ・バジーナという男に、通ずるものであった。 だから、 「良くない事、か・・・具体的に何かというのは・・・わからないものかね。」 少女がどういう種類の人間であるか分かるブレックスにしてみれば、決して彼女の持つ能力がいわゆる超能力的なものでないのは分かってはいた。 そうであれば未来の事を正確に見通せるわけはないという事も承知しているのだが、やはり、そう聞かざるを得ない部分もある。 そんなブレックスの問いに、真奈美は首を横に振ると、 「わかりません・・・ただ・・・人が・・・たくさん死ぬような・・・そんな、感じがします。」 あくまで漠然としたその答えは、だが、ブレックスにとっては十分すぎるものであった。 「そんな、根拠もないようなことを信じるんですか?」 ブレックスの表情を見て取ったのか、キースがそう尋ねた。 キースにしてみれば真奈美の言う事である、信じてあげたいという気持ちはあるのだが、いきなりそんな事を言われても、にわかに信じられるものでもない。 そんなキースに、ブレックスはこう言った。 「その子は、ニュータイプかもしれんからな。」 「ニュータイプ?」 そう聞き返したのは、エンジニア風の金髪の方の女性である。 「宇宙時代に適応した、新しい人類のありよう、といったところかな。君たちだって、アムロ・レイの名は知っているだろう?」 真奈美やベルトーチカでさえ、確かにその名は聞いたことがあった。 が、よもや、ベルトーチが後にそのアムロの子を宿すことになるなどということは、この時予想すらできる話ではなかったが。 「奴等、だな。」 不意にブレックスがそう呟く。 その奴等、というのがティターンズを指しているのだという事は、この場にいる誰もが、そうベルトーチカにさえも、なぜか、わかった。 仮に真奈美の言う事が真実だとしても、その原因を作るのがティターンズであると断定は出来ない。 ジオンの残党という事もあるし、あるいはもっと、まったく関係ない第3者ということだってありうる。 だがなぜかその時、誰もがそう思えた。 ここにいる誰もが、ティターンズに対して良い印象を抱いてはいない。だが、理由はそれだけではないだろう。 そしてそんな一同の想像を、 「おそらく、間違いないと、思います。」 真奈美はそう、肯定してみせた。 もちろん予感というだけで、予知できるわけではないのだが、だからといって真奈美のその言葉は、まったくの当てずっぽうでもない。 真奈美の予感というものは、どこかで"護"の存在に起因している部分がある。 護がジオンの生まれであると、明確には知らない真奈美ではあったが、心のどこかで、それを感じている部分はあった。 そうであるなら、その護に対して危害を加えるもの、今、その可能性が最も高いのは、間違いなくティターンズである。 「一体、何をするつもりなんでしょうか。バスクは。」 不意にそう口を開いたのは、キースの同僚である、あの青年。 「まだ、わからん。だが奴なら、何をしでかしても不思議ではないな。それを一番良く知っているのは・・・ウラキ少尉、君だろう。」 ウラキという名のその青年に向かって、ブレックスの言ったその言葉には、明らかに、ウラキたちに対して、決意を促すような、そんな、響きがあった。 |
確かに仲間内では、ほかにも要塞化したボールとか、森総理大増殖やら、空から大量に落ちてくるコロニーとか、やられてもゾンビのごとく復活するガンダムとかも元気にがんばっていますが・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかし、GWの新版、どこにもないんですけど。溝ノ口周辺全滅の模様。
って、話別な意味で脱線してますね。失礼。