あれは、いつのことだったか。
 高二の夏休み、ある雨の日のことだった。
 「もう、いつまで寝てんのよ。」
 そんな女の子の声がして、僕は目を覚ました。
 「なんだ、るりかか。」
 「なんだ・・・って、それが愛しい愛しい恋人に対して言う言葉?」
 「まったく、朝早く、しかも名古屋くんだりから・・・」
 「もうお昼だってば・・・」
 彼女の名は山本るりか。
 僕の、彼女だ。
 彼女が住んでいるのは名古屋。そしてここ、僕の家は東京。
 いわゆる遠距離(というほどのものでもないのかな?)恋愛である。
 こうなった経緯は・・・まあ、おいおい話していくとしよう。
 「罰として、今日は一日中私に付き合うのよ!」
 罰も何も最初っからそのつもりだったくせに・・・
 そんな風に考えないではなかったが、僕はそれを口には出さなかった。
 だいたい、そんな事はいつものことだし、第一、それが嫌だなどと思ったことは一度もない。
 口には出さないが、るりかとデート、というのは正直言って嬉しいし、楽しい。
 「で?今日はどこへ行くの。」
 だいたい彼女の方からこう言う時は、どこか行きたいところがある時だ。
 付き合いは長い、というほどではないが、それでも、大体彼女のパターンはわかる。
 「コンサート。チケットをね,もらったのよ。」
 すぐに機嫌を直し、るりかはそう言った。
 この切り替えの早さが、何より彼女のいいところであり、そして、かわいいところでもあった。
 「コンサート?」
 ふうん、と、その時の僕には特別な感慨はなかった。
 それが、あの奇妙な事件の始まりだとは、僕もるりかも、この時知るよしもなかったのである。


Sentimental Midnight
第一章




 「誰のコンサート?」
 あいにく家には誰もいない。そういえば父さんも母さんも旅行中だったっけ。
 まったく、息子をほったらかしていい身分だ。
 もっとも、こっちはこっちでるりかと好きにやってるんだからいえた義理ではないが。
 適当にパンとコーヒーだけを用意し、遅い朝食、いや、早めの昼食といった方がいいかもしれない、
 を取りながら、僕はるりかに話し掛けた。
 彼女の手料理、というのも考えないではなかったが、その腕前を知っているので、それを言うのはやめた。
 当人は、
 『結婚するまでには上達してみせる。』
 と常日頃から言ってはいるが・・・ようするにそういう腕前なのである。
 『そういや妙子はこういうの得意だったけ。』
 ふと、料理好きだった幼なじみの顔を思い浮かべる。
 小学校の時別れていらい、会ってはいない。
 考えてみれば小学生当時の妙子と比べても見劣りするのだから、るりかの料理の腕前は推して知るべし、だろう。
 「何考えてんの。」
 そんな僕の心の声が聞こえたのか、るりかが怖い顔で睨む。
 「な、何でもないよ。それよりいったい誰のコンサートなのさ。」
 なんとか話の矛先を変えようとする。
 「うーんとね。」
 そんな僕の思惑を知ってか知らずか、彼女は笑顔を見せてこう言った。
 「今をときめくトップアイドル、星野明日香ちゃん、だよ。」
 
ブッ
 その名を聞いた瞬間、僕は思わずコーヒーを吹き出していた。




 星野明日香。
 無論、その名前は知っている。
 ただいま売り出し中、人気絶頂のアイドル歌手、である。
 歌は・・・まあアイドルだし、という程度のものであるが、容姿と何より幼少時から磨かれたそのセンスが、
 彼女の存在を際立たせていた。
 実家がブティックを経営しているため、であろう。
 別にアイドル、というものに興味があるわけでもない僕が、なぜこんなことを知っているかというと、
 個人的に僕が彼女と知り合いだから、である。
 高校に入るまでの間、父親の仕事の都合で僕は日本中を連れまわされていた。
 連れまわす、という表現はなんだが、子供心にはそう感じるものだ。
 父が、どんな仕事をしているのか、それは知らなかった。
 それが、怪しい、そして人類の存亡にまで関わってくる、などと言うことも、もちろんこの時の僕は知らなかった。
 知るよしもなかった。
 高校に入り、父の職場が今の、確か箱根のあたりであったか、になったのも、
 当分そこにいられるようになったのも、僕にしてみればさしたる意味はなかった。
 これで、転校をしないで住む、という程度である。
 転校を繰り返していたためか、ごく親しい友人、というのは極めて少ない。が、その反面、
 日本中に友人がいる、というのも今になってみれば少し、嬉しい面もあった。
 その友人、というのがいずれも女の子である、ということもあるが。
 日本中に彼女がいる、と、友人である洞木ツバサにそう言われたこともあったっけ。
 実際は、そう色っぽいものではないのだが。
 るりかと出会ったのも、そんな中で、である。
 そして、明日香とも。
 明日香と出会ったのは横浜で。
 僕が、中学生のころだった。



第二章へ続く



あとがき

ジェイ:どうも毎度おなじみ(?)ジェイです。
アスカ:今度はいったいなに?
マナ:センチメンタルグラフティ・・・こんなのにはまってるんですね(ジト目)
ジェイ:何を言うか、これは立派にエヴァ小説なのだよ。
アスカ:どこがよ。
マナ:そういやジェイさん、ゲームの時は主人公に"慎二"って名前をつけてたって聞きましたけど。
ジェイ:それはねえ、本命がるりかだったから、中日の今中からとっただけなんすけど。
るりか:ってなわけで私がヒロインです!
ジェイ:急に出てこないでよ、ヒロインは君だけじゃないんだから。
マナ:他は誰なんですか?
ジェイ:とりあえずメインはるりか、若菜、明日香の3人。理由は単に僕のお好みだから。基本的には主人公、るりか、明日香でラブコメ、かな。若菜ももちろん絡んではくるけど、彼女の場合はもちっと重要な役にもなると思う。京都、だし。
アスカ:明日香と慎二・・・ってことはLASね。
ジェイ:なぜそうなる。主人公は名前はなしなの!
るりか:それは分かるとしても・・・じゃどこがエヴァなんですか?
ジェイ:それはまたおいおい、ってことで。エヴァっつってもシンジとかレイとかマナちゃんが出てくるわけじゃないし。
プレエヴァ、正確にはプレArcheって感じかな。
明日香:というわけなんでこれからもヨロシクね!
アスカ:アンタ誰?





新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。


J’s Archeのジェイさんから、 新しい連載シリーズをいただきました。
いつもほんとうにありがとうございます。 m(_^_)M

今回は、最近ジェイさんが、頭までずっぽりはまっているセンチメンタル・グラフティです。
が、実はエヴァ小説。

ジェイさんが
J’s Archeで連載のArcheのプレSTORYとなるらしいですが
これからどう展開していくのか....

いつもすばらしい小説を書いてくれるジェイさんへの感想のメールは
こちらへ。

 


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