転校しなれている、とはいっても、やはり、新しい学校、というのは若干の抵抗がある。
 転校生としての不安と緊張。
 そんな僕の気持ちを察してくれたのか、明日香は僕に積極的に話し掛けてきてくれた。
 元々クラスの中でも中心にいた彼女のおかげで、僕はすぐにそのクラスになじむことができた。
 『そういえば名古屋の時も同じだったな。あの時はるりかがいてくれて・・・』
 見知らぬ土地、優しく接してくれる少女。
 そんな彼女たちに、僕は自然とひかれていった。
 ("たち"などという言い方をすると、るりかは怒るだろうが)
 恋、というのとは少し違ったかもしれない。
 けれど・・・


Sentimental Midnight
第二章



 「恋、か・・・」
 横浜アリーナへと向かう道の途中。
 ふとそんな風に呟いてみる。
 「どしたの?」
 そんな僕の顔を、怪訝そうな表情でるりかが覗き込む。
 「い、いや、何でもないよ。」
 いくらなんでもデートの途中で他の女の子のこと、それもこれから行くコンサートの主役のことを、しかも個人的感情をこめて考えていた、などと言えるはずもない。
 「ふーん。」
 納得しかねる、と言った表情を見せるるりか。
 が、それ以上は何も言わない。
 そんなるりかの横顔を見つめ、僕は再び考え出した。
 恋・・・確かに今のるりかは僕にとって大事な・・・恋人である。
 けれど、そういう風に思えるようになったのは、つい最近のことだ。
 小学生の頃、彼女に初めて会った時にはそんなことは考えなかった。
 子供だったから、なのだろうか?
 確かに、幼なじみの妙子にも、そういう感情を抱いたことはない(今もし会ったら、どうかはわからないけど)
 お嫁さんになる、と言われたこともあったが、当時の僕は、それが"恋心"というものと直結はしなかった。
 子供だったから、なのだろう。
 けど・・・
 るりかのときは、そうではない。
 そう、そうではなかったのだ。
 忘れられなかったのだ。
 るりかと出会うその前に、出会った一人の少女のことが。
 初めて、異性として好きになった女の子が。
 初恋の、少女のことが。
 そんなことを考えていると、ふと、今のるりかに彼女の姿が重なって見えた気がした。
 (いまごろ、どうしてるだろう?)
 ちょうどその時、彼女の身に危険が迫っていたということなど、僕には知るよしもなかった。


 「ふう。」
 アルバムの写真を見つめ、綾崎若菜は一つ、ため息を吐いた。
 そこに写っているのは昔の自分と、そして、一人の少年。
 彼女にとって、初恋の・・・いや、今まででただ一人、好きになった少年である。
 「会いたい・・・。」
 一度たりとも、忘れたことなどはなかった。
 むしろ、その想いは日ごとに募っていく。
 その少年が、どこに住んでいるのか、若菜とて知らないわけではなかった。
 だが、いきなり尋ねていく、というのもおこがましいようでどこか気が引ける。
 自分のことなど覚えていないかもしれない。たとえ覚えていても・・・
 いつもいつも、若菜の考えはそうやって同じところをぐるぐると回っていた。
 今日もまた同じように・・・
 そんな時不意に、後ろでガタン、という音がした。
 「?」
 振り返る、が、そこには誰もいない。
 廊下の方だろうか。そう思って若菜は、そっと襖を開けた。
 「!」
 若菜が襖を開けると同時に、4,5人の男がなだれ込んでくる。
 男1人が素早く若菜の口を塞ぐ。
 その手慣れた動きは、明らかに訓練されたものであった。
 だが、若菜にそんなことはわかろうはずもない。
 なす術もない若菜の前に、男の一人が進み出てくる。
 「御無礼のほど、お許し頂きたい。だが、我々はあなたの力が必要なのです。"監視者"の長たる血をひく、あなたが、ね。」
 男たちは一様に覆面をかぶっていた。
 そのため、表情を読み取ることはできない。
 いや、表情どころか感情、気配、殺気、そんなものすら、一切感じることはできなかった。
 若菜とて弓道、すなわち多少なりとも武道の心得がある。
 が、彼らそんな若菜に反撃どころか気配すら察することさえさせなかったのだ。
 『誰か・・・』
 心の中で、若菜は助けを呼んだ。
 無駄とは知りつつ若菜が縋ったのは、あるいはあの少年だったのかもしれない。
 無論、少年が助けにこれるはずもなかった。だが、
 「ウグッ」
 不意に、男の一人がうめき声と共に吹っ飛ぶ。
 「何者!」
 さっと、残りの者たちの注意が、一点に集まる。
 そこに立っていたのは、一組の男女であった。
 男の方は、とても正義の味方、という風貌ではなかったが、少なくとも、鍛えられた、ケンカ慣れした、そんな雰囲気を感じさせた。
 あるいは、もう一人の女の用心棒なのかもしれない。
 女の方は、おそらく二十歳そこそこ。
 ショートカットの似合う、美しい女であった。
 だが、その女からは、どこか神々しいような、そんな雰囲気が醸し出されていた。
 「その子を、離しなさい。」
 静かに、だが、有無を言わせぬ口調で、女はそう言い放った。
 「お前・・・。」
 先ほど若菜に対し慇懃な態度をとった男が、にがにがしげに口を開く。
 どうやらこの男が、男たちのリーダーであるようだ。
 そして、目の前にいる二人の人物を、知っているようでもあった。
 「六分儀ゲンドウ、そして・・・碇ユイ、か。」

第三章へ続く


あとがき

若菜:というわけで、真ヒロインの綾崎若菜です。
るりか:ちょっとちょっと(^_^;)
明日香:えー!ヒロインてあたしじゃなかったのー?
るりか:なぁーに言ってんの、まだ名前しか出てないくせに。
妙子:そうそう。ようするに扱いのレベルは私と一緒、ってこと。
明日香:妙子ちゃんと一緒にはされたくないなあ。
妙子:どういう意味よ!



マナ:なんか、あの人たちに任せとくと先に進みませんねえ。
ジェイ:この先まだ増えること考えると・・・先が思いやられるな。
アスカ:あれならアタシの方が幾分マシね。
ジェイ:自分で言うなよ、自分で。
マナ:でもぉ。
ジェイ:なに?
マナ:私に言わせりゃそれでもアスカさんよりマシ、って気がするんですけどねえ。
ジェイ:そういわれてみりゃ、そうねえ。少なくとも若菜ちゃんあたりをアスカと同列に並べるってのは、ねえ。
マナ:間違ってます、よねえ。
アスカ:なんですってー!アタシのどこがー!!!
ジェイ・マナ:そういうとこ。




新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。



J’s Archeのジェイさんの、 センチ&エヴァ連載シリーズの第2話です。

少年の初恋の少女に襲い掛かる謎の集団。
そこへ現れる、碇ユイと六分儀ゲンドウ!!

少しずつセンチとエヴァの世界が近づいてきました

いつもすばらしい小説を書いてくれるジェイさんへの
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