「ここ、なんですか?」
キョウコさんにつれらた僕らは、鎌倉に来ていた。
とある一軒の家。
表札には『冬月』と書かれている。
「あのーここ・・・」
「なに?」
「僕の、伯母さんの家なんですけど・・・」
この家の主人、冬月コウゾウ。その妻ユキコは、僕の母の姉、つまり、僕の伯母に当る人であった。
Sentimental
Midnight
第七章
「来たのね。」
そういって伯母さんが迎えてくれる。
それは、来るのがわかっていたような、来るのを待っていてくれたような、そんな言葉だった。
けれど、果たしてそれが、キョウコさんに対してのものか、それとも僕に対してのものなのかは、分からなかった。
日本中を渡り歩いていたこともあって、無論、何度も会ったことはあったが、僕自身伯母という人を良くは知らなかった。
そして、伯母の話を聞いて行くうちに、僕はもっと、この人のことがわからなくなった。
何もかも、本当に何もかも、伯母は知っていた。
碇姉妹のこと、タブリス、使徒、監視者のこと。
赤木ナオコという人のこと、そしてその人こそ、タブリスを復活させることができ、すでにに敵の手に落ちていることも。
僕はその人のことを知らなかったが、伯母によると伯母の後輩にあたるとのことらしい。
その娘さんが今、伯母のだんなさんのところに来ているらしい。
が、さすがの伯母も、それに同行しているのが僕の知り合いである、ということまでは知らなかった。
優のことも知っていた。
優の母親が伯母の遠縁にあたるとのことらしい。
・・・あれ?そうすると僕も優と親類ってこと?
「そう、あなたの中にもにも碇の血が流れているのよ。」
その時の僕には、その言葉の意味するものは分からなかった。
◇
「変だとは思わない?」
そう伯母は僕に語り掛けた。
「なにが、です?」
「私に美央、ユイちゃんにユカちゃんに舞奈ちゃんに、それに優ちゃん。碇の直系の血を引いているのはみんな女だわ。」
ちなみに説明しておくと、美央というのは僕の母、舞奈ちゃんと言うのは優のお母さんのこと、である。
伯母はそう言ったが、僕はさほど変である、とは思わなかった。
確かに、女ばかりである、とは思ったが別に女系家族、というのは珍しくない。
だが、
「ユイちゃんとユカちゃんのお父さんは婿養子、私と舞奈ちゃんやユイちゃんたちを結んでいるのもお母さんのお母さんの、といった具合でね。私の知る限り碇の系譜の中で男なのはあなただけなのよ。」
そしてため息を一つつくと、伯母は再び話しはじめた。
碇の血の、呪われた宿縁を。
◇
「じゃあ僕は・・・」
碇の血、それは神を生み出す家系。
やがて来る、世界の滅亡のあと、新しい人類を率いて行く。
そのための後継者を生み出す家系であった。
その血は代々、女によって受け継がれて行く。
そして来るべきときに、碇の家系の中の男と女が結ばれ、後継者たる存在が産まれる。
碇の系譜に男が現れるのは、その時だけ、なのである。
つまり、僕の存在は・・・
「碇の血、と言っても純粋な直系の人間だけの話であって、私たちには直接関係はないわ。むしろ問題なのはユイちゃんとユカちゃんね。元々碇の直系の家は女の子が一人ずつしか生まれない。そうやって血の純粋性を保ってきた。もっとも私や舞奈ちゃんのような傍系の人間がいるってことはその限りではなかったんでしょうけど。でも双子っていうのはね・・・]
「その子供たち同士が結婚すればより血の濃い子が生まれる、そういうことね。」
厳しい表情でキョウコさんが呟く。
どちらかといえばこの人の性格は攻撃的らしく、先ほどから伯母の話を聞きながらも、ようは碇の血を始末すればそれでいいのでは、といった結構危ない発言もしていた。
無論ある程度冗談めかして(笑えない冗談ではあるが)言ってはいるものの、どこかに本心からそういう気持ちがあることも間違いないだろう。
「じゃ、僕ってなんなんです?」
「一言で言ってしまえばイレギュラーね。直系の家系ではなくとも遺伝子上のプログラムのようなものは生きている。だから兄弟の生まれる確率も男が産まれてくる確率も極端に低い。」
「でも、僕はここにいる。」
「いうなればそれは希望ともいえるね。神の計画では完璧ではない。」
先ほどまでじっと黙って話を聞いていた優が、そう口を挟む。
ちなみにるりかと明日香は・・・
「なに言ってんだか分かる?」
「ぜんぜん。」
・・・とりあえずこの二人はほっとこう。
ふうとため息をついて僕はふと、あることに思い至った。
「あれでも・・・イレギュラーでもなんでも、碇の血は引いてるわけだから・・・」
「そう、よく分かったわね。あなた、というのは実は最適なのよ。タブリスの為の器として、ね。」
◇
つまり、そういうことだったのであろう。
父が、僕とともに日本中を渡り歩いたのも、ゲヒルンという組織に身を置いているのも。
すべては監視者の目から僕の存在を隠す為。
「ついでに言うならもう一つ。日本中に散らばっている碇や監視者の中でも味方となってくれそうな人間と接触する、という目的もあったわ。」
一つ間を置いて、僕にとってはちっとばかりまずいことを、伯母は口にする。
「そこにいる七瀬さんをはじめとして、綾崎さんとか杉原さんとか、ね。」
綾崎、という名に思わずぴくりと反応したのを、伯母は見逃さなかった。
困ったことに伯母は、だんなさんが京都にいることも手伝ってか、僕の初恋の相手が若菜であるということを、よく知っていた。
そして。
「とにかく京都へ行きなさい。すべてはそれから、よ。もうやつらは動き出してる。あなたの大好きな若菜ちゃんも、襲われたらしいわ。」
「若菜が?」
驚く僕の、その後ろでは、
「とりあえず。」
「なんかよく話は分からないんだけど・・・」
不意に、明日香とるりかがそう言う。
「ひとつ、」
「とぉっても気になることがあるんだけど。」
「「若菜って、誰?」」
そういう彼女たちの声には、確かに嫉妬の感情がこもっていた。
この後、僕は三人の少女によって執拗な拷問を受けたのであった。
あれ?三人?
あとがき
るりか:もう一つ、気になることがあるんですけど。
ジェイ:なに?
るりか:優さんのお母さんの舞奈ちゃん、っていったい・・・
マナ:まさか父親の名は北斗とかいうんじゃあ・・・
アスカ:母親の旧姓が谷山とか・・・
明日香:べたべたなねたね。
ジェイ:何にしてもあれやね、ようやくはなしが一つにまとまりはじめたかな。
アスカ:話をそらすな。
るりか:ついに若菜さんと再会しちゃうんですねえ。
若菜:そんな、嫌そうに言わなくても.
るりか:いやだもん。
明日香:まあねえ、勝てないのがわかってるからねえ。
るりか:勝つわよ!何があっても!!
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
J’s Archeのジェイさんの、
センチ&エヴァ連載シリーズの第7話公開です。
今回、主人公の秘密が明らかになりましたが、
叔母さんの一言で、やはり修羅場(笑)
さて、次回はついにあの人の登場か?!
続きを速く読みたい方はジェイさんへ感想のメールを。