命からがら、京都へとたどり着いた僕たちは、
 正確には生命の危険に晒されていたのは僕だけであるが、
 とにもかくにも僕らは、京都へと到着していた。
 その足で僕たちが向かったのはユキコ伯母さんのだんなさん、つまり僕の伯父のところであった。
 伯父は、研究一筋な人であって、あまり家庭を顧みるような人ではなかった。
 それでも、少なくとも伯父と伯母の関係は良好であるように僕には見えた。
 元々、伯父は伯母の遠縁の子で、幼いころ両親を無くして伯母の家に引き取られてきたのだという。
 無論、伯父は碇の血などは引いていないが。
 年上であった伯母にとってみれば伯父は弟か息子のようなものなのかもしれない。
 二人の間に恋愛、それに類する想いがあるのかどうか分からないが、そういった関係というのも悪いものではないのかもしれないと、僕は思った。


Sentimental Midnight
第八章

 二人の間には子供がなかったから、余計に伯母にしてみれば伯父は手のかかる息子のように見えてくるのだろう。
 だから伯母は、伯父に今回のことを何一つ告げていなかった。
 僕らが伯父の元を訪れたのも、伯父の家を宿舎がわりにするだけのことであって、それ以上の意味はない。
 世の中、知らない方がいいこともあるわけで・・・ほんとに、まったく、ねえ。
 あのままるりかと二人、何も知らずにいたなら・・・っと思ってもそれを口には出せない。
 というか思うだけでもなんだか優と明日香の視線が痛いような・・・
 伯父の身を考えるなら、ほんとなら若菜のところにでも泊まるのが一番、と思わなくもないのだが、その意見はるりか、明日香、優の三人によりあっさりと却下された。
 ・・・あたりまえか。
 「やあ、いらっしゃい。」
 冷や汗かきまくりの僕を、伯父は優しく迎え入れてくれた。
 この状況、何より観光旅行ということになってはいるが、僕のほかは女性ばっかというこの異様な組み合わせを見ても何とも思わないこの伯父は、鈍感なのか大物なのか。
 後年、結局この自体に巻き込まれ、あの碇ゲンドウと共に仕事をしていたというのを聞いたときにはやっぱり大物なのかもとは思ったが。
 その大物ぶり、あるいは天然ぼけぶりとでも言おうか、それは伯父の部屋にも端的に表れていた。
 部屋に入った僕の目に真っ先に飛び込んできたのがその写真だった。
 教え子であろうか、二十そこそこの女性とともに伯父が写っている写真であった。
 教え子と講師、という関係で、写真があることは珍しいわけではないが、二人っきりで、しかもそんな写真を部屋に飾ってある、というのはやはり、含みのようなものがある。
 その女性がまさか碇ユイその人であるとは、今の僕はもちろん知らなかった。
 ほんの少し、伯父をからかってやろうかと思ったが、自分の回りを見渡して、それはやめた。
 人のこととやかく言える状態じゃないもんなあ。
 こと恋愛がらみのことに関しては。


 さてそんな僕をよほど神様は嫌っていたのであろうか。
 「ただいま。」
 という元気な声がして、誰かが家へと入ってくる。
 確か、伯母さんの後輩の娘とやらが来ていたことを思い出し、その子だろうと僕は当たりをつけた。
 赤木リツコちゃんとか言ったか、いろいろな事情はあれどまだ中学生の身で一人で金沢からこの京都まで来るなんてえらいものだ、と思っていたが、
 一人じゃなかった(爆)
 「ただいま、戻りました。」
 リツコちゃんの後ろから、眼鏡をかけた一人の少女が姿を現した。
 この人がリツコちゃんの保護者代わりとして一緒に京都まで来たのだという。
 名前は・・・聞かない方が、身のためなんだけどなあ。
 さあどうしようどうしよう。
 と、とりあえず、場面転換、かな。


 と僕が問題を先延ばしにしていたそのころ。
 東京駅に一人の少女が姿を現していた。
 そして、
 「あれか、目標の幼なじみ。」
 「自称許婚、らしいがな。」
 どこか意地の悪そうな笑みを浮かべる黒ずくめの男たち。
 許婚・・・ちょっとおっさん、その目標ってひょっとして僕とかじゃない、よねえ。
 人質とっておびき寄せ作戦、っていうのは、まあいい、いやよかないけどまあ考えられることだけど・・・
 人質の人選に問題があると思うのは僕だけ・・・だよねえ、きっと。
 だいたいさあ、るりかっていうきちんとした彼女がいるんだから、こっちを狙って・・・それはそれでまた困るのか。
 いやでもなあ、これ以上話をややこしくしないで欲しいよなあ。
 ひょっとしてこいつら、こういう手段で僕を追いつめよう、とか陰湿なこと考えてんじゃないだろうな。
 僕があんまり持てるからひがんでる・・・いやでももてない方が幸せか。トホホ・・・
 さて僕が今の彼らと彼女の状態を知らないように、東京駅についたその少女も、僕に今なにが起きているか、そしてこれから自分の身になにが降りかかってくるかを、当然知らずにいた。
 「東京、か。ついに来ちゃったんだ。」
 最大にして唯一の目的である僕が京都にいるなどとは露知らず、安達妙子は再会の期待に胸を膨らませ、嬉しそうにそう呟いた。
 ・・・考えて見りゃ不憫なやっちゃなあ、妙子って。


 さて場面は・・・戻す、の?戻さなきゃ駄目?
 やっぱ戻さなきゃいかんのかあ。
 案の定、と言うか、想像通り、というか、眼鏡のその少女、保坂美由紀は僕の顔を見るや否や、言葉を失い、
 「う、そ・・・こんな、ことって・・・」
 口元を覆いながら、大粒の涙を流しはじめた。
 めちゃめちゃ誤解を招きそうなシチュエーションである。
 しかも不孝はまだそれだけではなかった。
 リツコちゃんにせよ美由紀にせよ、遊ぶ為に京都に来たわけではない。
 さらわれたリツコちゃんの母親、ナオコさんの手がかりを得る為に来たわけで、そこに伯母さんが絡んじゃったりするともう、何というか予想通りというかそういう所に行き着くわけであって、
 リツコちゃんと美由紀の後ろにもう一人、少女がいた。
 その少女は、僕の顔を見て、おそらくここまで張っていた緊張の糸が切れたのであろう。
 ほとんど美由紀と同じような反応を見せた。
 唯一違ったのは、そのまま僕の方へと駆け出してきて、そのまま僕の首に抱き着いたことぐらい、であろうか。
 「私、私・・・恐かった・・・」
 いや、まあねえこれで二人っきりならとぉっても嬉しい状況なんだけど、ねえ。
 かといっておそらくかなり恐い思いをしたのであろう、僕の腕の中で小刻みに震えている若菜を、突っぱねることなどはできるはずもない。
 ん?僕の腕の中?
 ・・・気がつくと僕は、知らず知らずのうちに若菜の身体を優しく抱きしめていた。
 その僕の目の前では、美由紀がなにがなにやらわからず、呆けた顔を見せていた。
 ごめん美由紀、別に君が嫌いなわけでも君をないがしろにしてるわけでもないんだよ。
 ちなみに後ろの方々は・・・こ、恐くて振り向けん。
 振り向けないでいると、
 「しょうがないね、ほんとに。」
 そう言いながら、不意に僕の肩に優がポンッと手を乗せる。
 「ほ、ほんとに、ねえ。」
 にこやかぁに笑うその優の手は、
 「優、なんか肩においた手、やけに力がこもってない?」
 「そうかな。」
 「痛いよ。」
 「気のせいだよ。」
 ああ、あと何回、こんな思いをすればいいんだろう(泣)


第九章へ続く


あとがき

るりか:フ、フフフフフ。
明日香:こ、恐いよるりか。
るりか:私の見てる前で抱き着くなんて、言い度胸してるじゃない。
ジェイ:じゃなに、見てないとこならいいわけ?
るりか:いいわけないでしょ!
マナ:いやあ、大変そうですねえ。
アスカ:何アンタ一人でそんなにリラックスしてんのよ。
マナ:だってほら、私にはライバルらしいライバルがいないでしょ、だからああいう思いってしたことがないんですよねえ。
アスカ:ほほう、アタシなんか眼中にはない、とそう言いたいわけ?
明日香:美由紀さんのごとく、って感じ?
美由紀:ちょ、ちょっと明日香さん。なんでそこに私の名前が出てくるんですか!?
明日香:だってほら、今回の話なんかまさにそうじゃない。
美由紀:で、でもほら、別に嫌いなわけじゃないって・・・
るりか:好き、ともいってないけどね。
美由紀:そ、そんなあ。
ジェイ:まさにアスカと同じ、ってわけか。
アスカ:何落ち着き払ってるのよ!!
美由紀:何もかもジェイさんが悪いんじゃないですか!!
マナ:そう?
若菜:そうでしょうか?
アスカ:アンタらはいいわよ、扱い良いから!
美由紀:不公平です!
ジェイ:しょうがないじゃない、結局思い入れの差ってのがあるからねえ。
アスカ・美由紀:しょうがないで済ますな!










新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。




J’s Archeのジェイさんの、
センチ&エヴァ連載シリーズの第8話公開です。

京都で現れたのは美由紀さんと.....
いいところをかっさらっていく
若菜さん(笑)

奈酢美いち押しの妙ちゃんの登場で修羅場に拍車がかかるのか?

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