気になる二人
第1話
「えーい、俺はもう帰るぞ!!やってられるか!!」
俺は、サッカー部の部室のドアを乱暴に開けると帰り支度を始めた。
「孝幸っ、落ち着けよ。気持ちは判らんでもないけどないけどさぁ。」
「そーそー、相手は名ばかりの顧問じゃねぇーか。今日一日我慢すれば当分出てこねーよ。なっなっ」
「そうだよ、エースが抜けてどうすんだよ」
俺を追いかけてきたチームメイト数人が後から部室に入ってなんとか止めようとする。
「だからってなぁ....おいチビ、こらチビ、どうしたチビ、なんでチビがレギュラーなんだってのにこれ以上耐えろっていうのか!!。」
俺の剣幕にチームメイトはあっけにとられている。
「あ……そんなに言ってた?そいつぁいいすぎ……」
「どうせ俺はチビだよ チービ!! じゃあなっ!!」
部室のドアをすごい勢いで閉めて、俺は部室から出ていった。
☆
俺は瀬谷孝幸、高校2年生 クラスは2−1でサッカー部に所属している。
が、顧問の悪言にたまりかねて、途中でエスケープしてきたところだ。
ちくしょう、身長ばっかりは、自分でどうにもすることができない。
これほど悔しいものってないんだよなぁ。と思いながら、あたりをぶらついている。
しかし、こんな時間に帰るのは久しぶりだ。時間が早いせいか小学生らしきガキがやたらと多い。
土手の右側では、サッカー、その反対側では野球をやっている。
ほんと、ガキは元気だよなぁ。あそこの奴なんか、サッカーボール持ちながらこっちの方を向いて手を大きく振っているし。
「おじさーん、おじさーん」
なんだ、誰に向かって叫んでるんだ、あいつら?
「ちんまりした、おじさーん。うーしーろぉー」
ちんまり?なんだ?と思った瞬間に”ガツ”っと大きな音とともに後頭部に衝撃が走る。
その衝撃に思わず俺はその場にうつぶせに倒れてしまった。
痛たー・・・何が起こったんだ...
「あーあ、だから言ったのに、ホント鈍いおっさんだなぁ」
いきなりおっさん呼ばわりされて反応できるか!!!
と反論しようとしたとき
「ごめんねぇ、今の私のボールなんだ。」
と上の方から声がした。
ふと前を見ると、ふわっと制服のスカートが舞っているのが見えた。
「ごめん、大丈夫ぅー?」
心配そうにて制服姿の女の子が声をかけてきた。あれ、このスカートはうちの高校の制服じゃぁ...
そのとき風でスカートがまくれて.....あ、見えた。
「あっ……いえ……全然……平気……です…」
「よかったァ」
やっとのことその場に座り込むと長い髪の女の子の顔を覗いた。
こいつ同じクラスの飯島多佳子じゃねーか!!!!
あれ、でも違うかなぁ、飯島って確か双子じゃなかったっけ。別のクラスの妹のほうかも・・・・
俺が後頭部を押さえながら彼女のことをじーと見ていると、
「君って……いつもは見掛けないけど、ここ通り道なの?」
ん?、[君]だって。そっかこいつおれのこと知んねーんだ。とすっと、別クラスの妹の方だな。
「まーね、普段は部活でもっと遅いから。そんじゃあおたくはこの時間はいつもここなわけ?」
「うん」
うれしそうにうなずく彼女。
「ここ、小学校が近いでしょ。子供が多くって大好きなの。」
なるほど、この辺って、今の時間帯だとかわいくないガキの巣窟なワケね。
俺はあんなガキ死んでも好かんぞ。
「でも、いいわけ?子供ん中に高校生がまざってさ?」
「ぜーんぜん。子供たって体格いいもん。女なんか高校生でも助っ人にはなんないよぉ」
そのとき、野球をしている子供が彼女を呼びにきた。
「おねーちゃん。打順だよぉー」
「うんわかった。すぐ行くねぇ。それじゃあ、またねぇー。」
そう言って彼女は野球の輪の中に入っていった。彼女の打順らしい。
カキーンという音と共に、ボールははるか彼方へ飛んでいく。
「ぎゃーまたホームランかよ。バカヤロー」
守備側のガキが吠えている。
「どこが・・・・・・助っ人にもならないって?」
これが、俺と彼女との出会いだった。
☆
翌日、教室で俺は昨日の女の子のことを考えていた。
飯島多佳子の妹かぁ。ホント元気なやつだったよな。そういえば多佳子の方はおっとりした感じのコだったもんなぁ・・・・・あれ、名前なんていうんだろう?
と、ふと後ろを向くと多佳子がうつむきながら席で何かやっている。よし!!
彼女のところまで行き、
「飯島っ。飯島多佳子さんっ」
「え?」
彼女がこっちを向いてきた。驚いたな、ホント昨日の妹とうり二つだ。
「何?瀬谷くん」
「あ?、ああ・・飯島の妹って何て名前なんだ?」
「妹ってユカちゃん?有佳子だけど....」
ふーん。有佳子てゆーんだあのコ。名前まで似てらぁ
「ところで、飯島、それ何?」
彼女の手元を見ると袋から糸のようなものと手には棒...それに...
「セーターよ。」
「へっ今頃?」
今はまだ6月である。
「わたしのペースだと、今から頑張んないと今度の冬に間に合わないんだよね」
「へーそれじゃあ、出来上がるまで半年近くもかかるんだ、それって。大変だねぇ」
「え?」
おや、なんか考え込んでるぞ。俺なんか変なこと言ったかな。
「これ・・・・・・おととしから編んでるんだけどナ」
「あ”?」
お、おととしからって....マジ?
☆
昼休み、待ちに待った弁当タイムである。しかし、ふと、多佳子の方を見ると何やらコロッケを見つめている。
「多佳子っながめてないでさっさと食いなっ。」
「んーだって、きれいなコロッケだからなんか食べるのもったいなくって..」
あれじゃあなぁ、セーター一枚に何年もかかるわけだよな。
妹はあんなに機敏なのにさ。顔は同じでもやっぱ違うものなんだなぁ。
と、考えていたら、
「孝幸ぃー食わねぇのか?そんじゃあ、いただきぃ(バク)」
あ、おめーら、人の弁当食うんじゃねぇ、バカヤロー
あーあ、飯が半分になっちまった。クソっ。
しかし、多佳子に有佳子ねぇ……双子でもあんなに違うもんなのかな。
☆
「あーっ今日も部活サボってるぅ」
「え?」
後ろからの声に振り向くと、元気に女の子がこっちに走ってきた。
「やっほー」
でたな、お元気有佳子。
「あんまり休むとねぇ、レギュラーはずされちゃうぞぉ」
「残念でした。今日は午前中だけなの。そっちこそ日曜だっていうのにまた野球か?」
今日は制服じゃなく、動きやすいスパッツ姿の有佳子である。
「ううん、今日はサッカーなの。そこのグラウンドで」
「ホント、あきないねぇって、コラっ、引っ張るんじゃない。」
「とうぜんだろ。ボールも避けられないような鈍いおっさんとは若さが違うぜ!!」
こいつらは、この間のかわいくないガキらじゃねーか。こいつらもいたのか。
「それってもしかして俺のことか?クソガキ」
「他に誰がいんだよ。子供はウソつかないって知らねーのか、おっさん」
ムカっ、やっぱかわいくない!!
「ごめんねー普段はいい子たちなんだけど・・・・・」
有佳子がすまなそうにいうが、ガキたちはさっさとグランドの方へ行ってしまった。
「ふーん。要するに・・・俺にだけ悪い子なワケね。上等じゃん。」
俺もグラウンドへ走り、さっきのかわいくないクソガキからボールを奪う。
向こうも懸命にボールを奪おうとするが、簡単には渡しはしないぞ。
「だからぁ、鈍いおっさん相手なら」
ボールをトラップし、相手を翻弄する。
「こんなボールかるーくとれるだろ?」
「く、くそぉ」
「あれ?とれない?なぜかなぁ」
「そっちは高校生じゃんかっ」
ふっさっきと立場が逆転したな。
「お前等もボーッと見てないで手伝えよぉ!!」
クソガキが仲間に叫ぶが、こちらは俺達のボールの奪い合いに見とれている。
有佳子だけは声をこらえて笑っているようだが。
少ししてボールをクソガキにパスして、笑っている有佳子の所へ戻る。
「やーねー、男の子って、何だカンだ言ってたくせに自分が一番のりやすいんだから」
「ばかやろー」
向こうでクソガキが吠えている。
「わははっ思いっきりいじめてしまった。性格悪いかんね、俺も」
「どうだか....ね」
「えっ」
「だって子供なんて走ればあっさり振り切れるのに、一度も走って逃げなかったじゃない。」
「うっ」
「性格の悪い人はわざと接近戦なんてしないと思うなぁ」
「それは・・・・」
「ねっ!」
有佳子は微笑みながらこちらに顔を向ける。
こいつは・・・びっくり。
女の子なのにそんなことまでわかるワケ?
「次ーっわたし、わたしやる。まぜてまぜてぇ」
有佳子がグラウンドに向けて走っていく。
うーん。ただ元気なだけの女の子じゃないんだなぁ。
「よーし、俺も入るぞ。勝負だ!!」
俺は再度、グランドへ走っていった。
あとがき
はじめまして、ユーリです。
今回はじめて、SSらしきものを書いてみました。
実際には、この作品は私の好きな某漫画のノベライゼーションなので、
ストーリ的には知っている方もいるかと思いますが、おてやらわかに。
全3話になる予定です。
ユーリさんからの、オリジナル系小説です。
私もこの原作が好きなのでお楽しみにしています。
ユーリさんへの感想メールは、私当てに下されば転送します。