気になる二人

第2話


 

放課後、あいにくの雨である。

「あーあ、うざってえ雨だなぁ、4日目だぜ、4日目っ」
「毎日、校舎の中で基礎トレばっかじゃんかよー」

チームメイトがぼやく中、とりあえず俺は、サッカー部の部室で外を眺めていた。

この雨じゃ、彼女もさぞかしヒマだろーになぁ。

「孝幸。」
「おうっ」
「今日はやっぱり解散だと」
「解散?」
「うん、じゃあ俺先に帰るから、じゃあなぁ」

うーんヒトの心配している間に自分がヒマになっちまった。
どうすんかなぁ。とりあえず帰るか.....
俺は昇降口の2−1の自分の下駄箱へ向かった。

おやぁ、2−4の下駄箱にいるあれは・・・・・
飯島有佳子ではないか。ラッキー

「飯島っ」
「瀬谷くん」
「どーかしたのか?さっきからボーッとして」

下駄箱を覗くのをやめて、飯島がこちらを向く。

「あ・・・あの、有佳ちゃん待ってたんだけど、置いてかれちゃったみたいでぇ」
「えっ」

有佳ちゃんにって?
はっ・・・・・・ということは、こいつは有佳子ではないぞ。
し・・しまった!これもしかしてうちのクラスの多佳子のほうかぁ!?
きったねぇー妹のクラスんとこにいるんだもんな。
こりゃ、とんでもないほうに声かけちまったぞ。

「妹待ってたって傘無いワケ? どうしたのさ、今朝も降ってただろ?」
「来る途中どっかに飛んでっちゃった。」

多佳子が言いにくそうにいった。
こいつホントに高校生なのか?


「しょうがない、家まで送っていってやるよ」
「ご・・・ごめんね」
「しゃーないでしょ、飯島、家どこなの?」
「え、桜井町だけど・・・あのね、瀬谷くん」
「なに?」
「わたしのこと多佳子って呼んで!」

ゴン、おもわず、電柱に顔をぶつけてしまった。
いったいなにを言い出すのかと思ったら・・・・い、いたいぞ。

「あ、あのなぁ おれ、あんたと夫婦でも恋人でも幼馴染でもないんだけどぉ・・?」
「え?うん、もちろんそう言う意味じゃないんだケドね」
「え、それじゃあ」
「苗字で呼ばれると、わたしでも有佳ちゃんでもいいみたいで好きじゃないの」

お、いっちょまえに自己主張してやがる。

「へーえ、そうなの?双子って妙なこと気にすんだな。」
「だって、瀬谷くんわたしのこと有佳ちゃんだと思って声かけたんでしょ?」

う、ばれてたか。結構鋭いぞ。

「ねえ、有佳ちゃんといつ知り合い・・・あっ・・・・」

ん、多佳子が道路側の俺のほうに寄ってきた。
と思ったら、突然、カバンとお弁当箱を放りだして車道へ駆け出していく。

「なにやってんだ、あのバカ!!」

車のクラクションが鳴り響く。
え、もう、反対側・・・・

俺は、呆然として言葉も出なかった。
信じらんねー、いきなり通りを横切るなんて・・・・・


「はい」
「ありがと、おねーちゃん」

急いで通りの反対側へ走っていくと、多佳子が小学生ぐらいの女の子にオレンジを渡しているところが見えた。

「多佳子いったいどうしたんだ?」
「瀬谷くん」
「それじゃあ、バイバイ、おねーちゃん」
「・・・・・・・・」
「瀬谷くん、わざわざ追っかけてきてくれたの?」

人の気も知らないで、なにのんきに喜んでんだか。

「あなたが放り出したカバンと弁当箱を宅急便で運んできましたとさ。」
「あ、ごめんなさい。」

多佳子が真っ赤になって受け取った。

「ところで、今の子に渡していたのオレンジ?」
「あ、あれ?うん、落としたのを拾ってあげただけなの。」
「拾って・・・?」

まさかとは思うが・・・

「で、そのオレンジはどこまで転がっていったのかな?」
「えっ」
「どこで拾ったのかきーてんだよ」

「・・・・あ・・・・」
「・・・・・・・・・」

多佳子が言いにくそうに口を開く。

「車道の・・・・真ん中・・・・どうしてわかったの?」
「ばかか、おめーは!!!」

俺は、多佳子に大声で怒鳴っていた。周りの人が見ているが、そんなことはどうでもいい。

「さんざんヒトに心配かけさせといて、飛び出したのはオレンジ一個拾うためだぁ!?そんなもんほっといたって、死にゃあせんだろうがっ!」
「でもぉ」
「でもじゃない!!」
「だってぇ」
「だってじゃない!!」
「・・・・・・・・・」

し、しまった、興奮してしまった。

「お、おまえなー 一歩間違えたら、自分がどうにかなってたんだぞ。」
「うん」
「へ?」

わかってるんならどうしてこんなことを・・・・・

「でもっ・・・でもね、わたしでなかったら、あの子が・・・・今にも飛び出しそうだったのよ・・・・」

えっ・・・・そうだったのか。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

沈黙がつづく・・・
いつのまにか、雨は上がっていた。

「あの・・・雨もあがったし、ここでありがと。」
「そ、そうか。」
「ごめんね、遠回りさせちゃって。」
「おう」
「じゃーねぇ、バイバーイ。」

多佳子が、腕を振りながら駆け出していった。
しかし・・・うって変って明るいヤツ。
と、多佳子の動きがピタっと止まり、こちらに振り向く。

「瀬谷くん。」

ん、なんだ?

「あの・・・さっきは・・・ありがとう心配してくれて・・・うれしかった。」
「えっ?」

多佳子はそれだけ言うと、向こうへ駆けていって直ぐに見えなくなった。

しかし・・・驚いたよなぁ。あの多佳子があんなマネするたぁ。
でも、通りの反対側、子供よりもすばやく車道へ踊り出た。
そんなこと・・・普通の女の子に出来るのか?

多佳子って・・・おっとりしてて妹と正反対のはずじゃあなかったのか?


翌日、久々に晴れた昼休み、俺はグランドから水でも飲もうと水飲み場へ向かっていた。

「せーやーくんっ」
「ねー多佳子見なかった?」
「さー、なんだよおまえら。外で昼メシかよー。」
クラスの女子数人が、校庭の木陰でランチタイムとしゃれこんでいた。
「だーって、久々のお天気じゃない。」
「でも、多佳子どこ行ったのかなぁ」
「ねー迷子になったんじゃないのぉ」
「あの子ならありえるわね。」
「言えてるかも・・・あ、あかんべドラゴンたべるぅー」

ま、まるでピクニックね・・・・

と、ドンっと、誰かにぶつかってしまった。
まずい。

「と・・・悪い」

倒れそうになる女の子の腕を支えると・・・・・

「ん?、なんだぁ 多佳子じゃね−か。おまえ他の連中が探して・・・」
「えっ」

なんだ、なんとなく顔が不機嫌だぞ。

「わたしっ・・・多佳子じゃないわ!」
「へっ」

あ!、まずい。

「ごっ・・・ごめん」

しかし、彼女はそのまま向こうへすたすたと歩いていってしまった。

「わーい、ふられたぁ」
「・・・・・・・・・」

後ろから声をかけるのは.......後ろを振り向くと、ホンモノの多佳子がにっこにこな顔で立っていた。

「あんたって性格いー・・・・・そこで笑って見てたな、トンでもねーやつ」
「だっ・・・だってぇ有佳ちゃんが瀬谷君くんとぶつかるなんて思わなかったんだもーん」
「それだけどさ、なんか今日の妹、機嫌悪くない?」
「あ、怒ってたの?」
「ああ」
「あれ、わたしと間違えたせいだと思う。双子ってそういうの過敏に気にしちゃうから。ごめんねー」

あれ?

「ほ・・・ほら、あたし達って小さい時からそれの繰り返しだったでしょ?それでつい腹立たしくなっちゃう時ってあるのよね。わ、わる気は無いのよほんとに。」
「・・・・・・・・・・・・」

そりゃ確かに双子には双子にしかわからない苛立ちってものがあるんだろう。
何度も何度も間違えられてきたんだ、いい加減腹が立つのもわかるさ。
でも、それは・・・・・・

「それ、妹の心情だろ?何であんたが謝ったり言い訳したりすんの?」
「え?、あ・・・あれ? そういえば・・・」

なに答えに詰まってるんだ、こいつ。

「あ・・・だって、それってわたしも同じだしぃ。うん、そーなのよ」

ウソこけっ、自分は昨日間違えられても怒んなかったくせに。
こいつってほんっと人がいいよな。
これじゃおっとりして見えても当然か・・・・お人好しがにじみ出てるもんな。

とても・・・昨日みたいなマネをするコだなんて、俺のほかには気づいてるやつなんていないんだろうなぁ・・・・・・・・
俺のほかに・・・・・なんか妙な響きのある言葉だなこれって。

「ところで瀬谷くんってば、サッカーやってたんじゃないの?早弁して・・」
「ちょっと休憩。飽きちゃった。」
「あーっサッカー部員がそんなこと言っていけないんだぁ。」
「へーよくご存知で・・・」
「あら、知ってることなら他にもたくさんあるよ。」

えっ、他にもって・・・

「あー、たとえば?」
「身長164、クラスの男子で一番ちっこいの。」

うぉ、人が気にしている事を平然と

「おまえなぁっ、正確に言うんじゃないっ」
「瀬谷くんってば、それすごくくやしいって思っている。」

ん?

「その分他のことでは負けたくないって思っているわ。一番嫌いなのは小柄だからって妥協されること。だから何をするにも先頭を突っ走っちゃうのよね」
「・・・・・・・・・」

こいつ、どうしてそんなことまで。

「へへっ図星でしょう」

「だって・・・好きな人のことはいつでも見てるもの。それくらいすぐにわかるわ。」

多佳子が微笑みながら言った。
へっ?たん・・・ま

−−それくらい、すぐにわかるわ−−

いきなり・・・なに言い出すんだ。こいつは。

「あ、でも気にしないで、言いたかっただけだから。だって瀬谷くんは・・・有佳ちゃんが好きなんでしょう?」

えっ

「昨日ね、間違えられて声をかけられた時、わかっちゃったんだ。わたしに話しかける時と、全然感じが違ったよ。」
「・・・・・・・・・」

こういうことって、人に言われて・・・・気づくこともあるんだ・・・・・
俺は有佳子のことを・・・・・・

でも、それじゃあ・・・・・

「わたしはへーき。だって有佳ちゃんじゃしかたないもん。」

多佳子がとびきりの笑顔で答えた。
お、俺は・・・・・・・

「あの・・・さ、こう言ういい方って都合いいかもしんないけど。今なら・・・多佳子も妹も変わらないって思うよ。」

そうなんだよな。今ならそれが良くわかる・・・

「もし最初にボールをぶつけたのが多佳子のほうだったら、きっと多佳子を好きになっていたと思うよ。」
「・・・・・・・・・え?」

多佳子は、びっくりした顔でこっちを見ている。
俺は、沈黙の中その場にいずらくなって、その場から駆け出した。

何も・・・ウソ言ったわけじゃないさ。今なら本当に・・・あいつのお人好しだっていいとこなんだって思ってる。
でも、それに気づくのが・・・・・・ほんの少し遅かったよな−

俺はその日、有佳子のところへは行かなかった。いや、行けなかった。

 

第3話へ続く



あとがき

ユーリです。
今回は中編になります。
次回で完結します。
ちなみに完全なハッピーエンドですのでご安心を。


ユーリさんからのオリジナル系小説第2弾です。

ユーリさんへの感想メールは、私当てに下されば転送します。


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